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第41話 休日の過ごし方 ページ43

この島に来て11回目の朝を迎えたAは、暖かな日差しの中でいつもの着物や狩衣ではない服に着替える。
この島に降り立った時に着ていた服だ。

青い刺繍がはいった白いスカートを揺らして、Aは鸕宮家の門を出た。
まだ完全に傷が治っていたわけではないので、今日は特別に休みをもらえたのだ。

楽しそうにメインストリートを歩くAを見て、大人達は訝しげな表情をする。
しかしそんな周囲の目も気にせず、Aは目的の物を買い終えて寄り道をしようとしていた。

そして着いたのが、先日ランニングをしていて見つけたあの海岸だった。

あいかわらず静かだったその場所は、Aに故郷の面影を感じさせた。

心地よい風、さらさらと揺れる木々、美しい小鳥のさえずりが故郷を思い起こさせる。

買い物袋を横に置き、Aは岸の上に座った。

ここだけでいい、

この場所にいる時だけ、おばあちゃんのことを思い出して、悲しんでも、いいよね…………
故郷のことを思い出して、本土にいる友達を思い出しても、いいよね………………

前に進むとは決めたけど、たまにだけ、ほんとにたまにだけでいいから………………

………………立ち止まらせてよ。昔のことでも、思い出させてよ……………

そんなことを考えると、目に涙が溢れてきた。
Aはそのまま涙がとまるまでずっと、膝を抱えていた。


昼を過ぎてようやく泣き止んだAの隣には、螺鈿がいた。
いつのまにか出してしまったらしい。

螺鈿は普通の鷹くらいの大きさになり、Aの腕に自分の頬をすりつけていた。

キュウ………と心配そうに鳴く愛鷹に、Aは安心させるように螺鈿の頭を撫でた。

「心配してくれてありがとう、螺鈿…………」

優しく言葉を紡ぐAに、螺鈿はまだ頬を擦り付けていた。

そして螺鈿が急に消えたかと思うと、今度は宇迦之御魂が口を開いた。

(そんなにこの場所が好きなのね、A……………………)
「そんなにこの場所が好きなのかぁ?キツネ子!」

一つに重なった声に、Aは最初誰が言ったのか分からなかった。

しかし後ろを振り返って声の主を見た時、ようやく頭が追いついたのだ。

「天馬様………!?このような場所に、どうして……………!?」

天馬はそんな問いにもかまわずAの隣に腰掛けるとAと同じくじっと海を見た。
そしてぽそりと呟く。

「……………俺も、昔ここに来たことがある。久し振りに来たな………。」

天馬の瞳は、透き通っていた。

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設定タグ:双星の陰陽師 , 鸕宮天馬 , 夢小説   
作品ジャンル:恋愛
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あとり - ありがとうございます!大変遅くなりましたが更新させていただきました! (2018年2月13日 0時) (レス) id: ce2f790ea1 (このIDを非表示/違反報告)
(* ´ ▽ ` *) - 続きはまだですか?とても面白いので、更新頑張ってください! (2018年1月28日 15時) (レス) id: 18290c3fc7 (このIDを非表示/違反報告)
ちっち - あとりさんこの小説大好きなので、頑張って更新してください! (2017年12月29日 9時) (レス) id: d069e4a0a4 (このIDを非表示/違反報告)
あとり - 夜実さん、すみませんでした!ご指摘ありがとうございます!気をつけます! (2017年3月30日 0時) (レス) id: 493c050031 (このIDを非表示/違反報告)
夜実 - 47なのに46になってますよ〜(このコメント消していいです) (2017年3月29日 23時) (レス) id: 180bd39056 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あとり | 作成日時:2017年2月17日 7時

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