第42話 在りし日の少年 ページ44
その日は、梅雨の時期とは思えないほどよく晴れた日だった。
紅の髪を揺らす少年は、先生の目を盗んで訓練場を後にした。
その日少年は、生まれて初めて虹を見たのだ。
どこまでも広がる青い空に架かる、七色の光。それが少年にとってどれほどの驚きであり、発見だったのは言うまでもない。
そして、少年は知りたかったのだ。
光に触れる方法を、空に登る方法を。
"知りたい"という衝動を抑えられなくなった少年は同じく、生まれて初めて修行を抜け出したのだ。
虹に向かって走った末に、少年はある場所にたどり着いた。
そこは、人の手が加えられておらず、木々が好きなだけ生い茂った海岸だった。
崖下には白い砂浜が広がり、空には大きな虹が空に橋を架けている。
しかし、島で一番虹に近いところに来たというのに、虹はまだまだ遠くて、一向に触れられる気がしなかった。
しかし少年は諦めきれず、どうにかして虹に触れようと考えた。
「……………よし。とぶしかねえよな!」
そう言うと少年は助走をつけ、崖から世紀の大ジャンプをする………………………予定だった。
跳ぼうとした少年の襟を誰かが強く引っ張る。
少年は力の移動に耐えきれずその場に崩れた。
「………いってぇな!だれだおまえ!」
少年は甲高い声を上げ、自分を引っ張った人間を見ると、そこには一人の女性がいた。
「あらごめんなさいね………でも、今貴方飛び降りようとしたのよ………?」
そこに立っていたのは、白いワンピースを着て水色のカーディガンを身にまとっている、若い女性だった。
白い肌に黒髪がよく映えているが、雰囲気からか病弱な人間という印象だった。
女は優しい笑みを浮かべる。
「ここに私以外の人が来たの、初めてよ。なんだか嬉しいわ。こんなに可愛らしいお客様が来てくれて……………」
少年はキッと眉を吊り上げる。
「かわいくないやい!おれはおんみょうじなんだぞ!もう5さいにもなったんだからな!」
ぷりぷりと頬を膨らませて言う少年に、女はふふふ、と小さく笑った。
「ごめんなさいね、小さな陰陽師さん。貴方はなんてお名前なの?」
身をかがめて少年の顔を覗き込む女に、少年は腕を組みながら答えた。
「おれはてんまだ!うのみやてんま!どうだ、びっくりしただろ!おれんちはえらいからな!」
女は一瞬だけ驚いた表情をすると、天馬を見つめながらまた笑った。
「そうか…………貴方が……………」
天馬は、女が言ったことの意味がわからなかった。
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あとり - ありがとうございます!大変遅くなりましたが更新させていただきました! (2018年2月13日 0時) (レス) id: ce2f790ea1 (このIDを非表示/違反報告)
(* ´ ▽ ` *) - 続きはまだですか?とても面白いので、更新頑張ってください! (2018年1月28日 15時) (レス) id: 18290c3fc7 (このIDを非表示/違反報告)
ちっち - あとりさんこの小説大好きなので、頑張って更新してください! (2017年12月29日 9時) (レス) id: d069e4a0a4 (このIDを非表示/違反報告)
あとり - 夜実さん、すみませんでした!ご指摘ありがとうございます!気をつけます! (2017年3月30日 0時) (レス) id: 493c050031 (このIDを非表示/違反報告)
夜実 - 47なのに46になってますよ〜(このコメント消していいです) (2017年3月29日 23時) (レス) id: 180bd39056 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あとり | 作成日時:2017年2月17日 7時