兄 ページ44
かつて、理事長が言っていた。
犯罪学園は刑期であり、監獄でもあると。
もう一度人生をやり直すための。
しかし社会に復帰出来ない学生もいる。
それは刑期中に再び犯罪行為をすれば罪の重さによって死刑を告げられる場合もあるのだ。
篠崎雪那はすでに退学、つまり死刑が決まっている。
そのことに関して雪那はショックを受けるでもなく死が早まった、としか考えていないし当然と思っていた。
退学まであとXX日。
今日も当然のように朝が来た。
雪那は右目をおさえる。
包帯をつけなければと思った瞬間、扉が三回ノックされいつものアイツが入ってきた。
「雪那！」
久々に会ったかのような弾ける笑顔に雪那は眉根を寄せる。
「ウゼェ」
「雪那、おはよう。兄ちゃんと朝ごはん食べに行こう」
雪那の右目を見た人間は大抵恐れや嫌悪感を露わにするのだが、この兄を名乗る源河は平然としている。
むしろ。
「そこどけ、タオル取らせろ」
雪那は顔を洗うと兄を押し棚からタオルを取り出し入念に拭いた。
そんな雪那の様子を見た兄源河は右目の上に丁寧に包帯を貼り付ける。
「…」
「どうしたの、雪那。元気ないじゃん」
「…お前がいるからだろ朝からうぜえ」
悪態をつかれて機嫌を損ねる兄ではない。
全く気にしない様子で雪那のカバンの中に今日の授業に使う教材と仕事着を入れた。
「雪那、忘れ物ない？」
「お前が全部しただろ。知るかよ」
だるそうに鞄を背負うと雪那は一足先に部屋を出た。
その背中をゆっくりと兄は追う。
歪な愛ではあるが、源河と居るとつい涙腺が緩み、こじ開けたくない心の蓋が開きそうになるのだ。
感じてはならない。生まれてはならない。
愛されているという喜び。
雪那はそれを振り払うことに必死だ。
「雪那」
後ろから声をかけられるも無視をする。
( 話しかけるな )
「雪那、ねえ雪那」
( 黙れ )
雪那は源河と距離を取るために早足で歩く。
「雪那！」
「んだようるせえな！」
「…いや。道、間違えてるけど」
はるか後方にいる源河が自分と全く反対の方向に指をさす。
「うるせえ。お前がしつけえから間違えただけだ」
雪那はこの時、何も意識をしていなかったためかわりと力が入っていたのだろう。
いつもの如く兄を手で押したのだが、その力が強すぎて兄は側の田んぼへとはまってしまった。
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作者名：塩味 | 作成日時：2019年1月27日 19時
