何度でも (ページ21)

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昔から、この呪文が得意というわけではなかった。

初めて守護霊を呼び出すことに成功したのは、不死鳥の騎士団での任務時だった。
その時はブラックも一緒で、褒めてくれたことが嬉しかったのを覚えている。

“守護霊がうさぎなんて、かわいいな”

そう笑われたのも覚えている。白い歯を見せながら笑って、すごいなって頭をなでてくれたのも、全部、全部覚えてるよ。

「──エクスペクト・パトローナム、！」

ただ、今は、白いもやが少し出るだけで、ブラックを守るどころか、自分すらも守れやしなかった。
それに焦るばかりで、何度試してもうまくいかない。

幸せなこと、幸せなこと…

ブラックに気が付いてもらえなかった今、すぐに思い当たるものが何一つとしてなかった。
彼にずっと会いたかった。会えただけで幸せだと思ったのに。

「キャン！！」

犬に変しているシリウスが吠える。弱った彼は、人の姿へと戻ってしまった。
まずい。そう思った途端から、吸魂鬼は彼に襲い掛かる。

「エクスペクト・パトローナム！エクスペクト…」

Aにも吸魂鬼が近づいてきて、もう後がなかった。
遠くでハリーがブラックを呼んでいるのが微かに聞こえる。意識が遠のいていた。

“幸せな思い出って言ったって、すぐに思いつかないわよ”

そう、ブラックに溢したことがあった。その時、彼は何と言っていたっけ。
確か──

「エクスペクト・パトローナム！」

“じゃあ、俺のこと思い出せよ”

思い出してるよ。
あなたとの思い出、たくさんあるから。

でも、思い起こされるのは、女子生徒に囲まれる姿だとか、親友といたずらして先生に怒られている姿とか、エレメンタリースクールの男子みたいにからかってくる姿だとか、そんな、どうでもいいようなことばかりで。

もしかして、私ってブラックとあんまり仲良くはなかったのかも。それなのに、私に気が付いてくれるんじゃないかと勝手に期待して、気が付いてもらえず勝手に失望して。

そんな自分が馬鹿らしく思えてきて、Aは「は、」と自嘲的な笑いをこぼすと、そのまま意識を失った。