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「着きましたよ」
心の中で「ひゃっほ〜い!」と叫びながら車から降りる。
翌日任務を無事に終わらせた私は、今伊地知さんの運転で書店に到着した。昨日伊地知さんが徹夜で予約してくれた小説を取りに来たのだ。
先月の給料を握り締めて入店。スキップをしながらカウンターに向かい、いつものように「くださーい!」と叫ぶ。
「はーい、これだね」
奥から出てきたベテランの店員さんが、ニコニコしながら迎えてくれた。シオッシオの千円札を渡し、既に準備されていたらしいお釣りを貰って小説を抱き締めた。
絶ッ対に、今日中に読んでやる! そう心に強く刻んで。
「Aちゃん、新しい小説入ったから見てってよ」
横で本の整理をしていた定員が営業スマイルでそう言う。指を差された棚に向かうと、私が好きなジャンルの小説がズラーと並んでいた。裏を見て私が好きなやつだと確信。
クルっと進む方向を変え、レジに向かって歩き出す。勿論スキップで。すると、後ろから誰かが走っている足音が。
『伊地知さーん、書店で走行は禁忌だよ?』
「私は車ではありませんよ……」
案外息を切らしながら、私にスマホを手渡してきた。伊地知さんのスマホだ。何故か通話中になっている。そして私は、通話者の名前を見ずにスマホを耳に当ててしまった。
『もしもーし』
「«やっ!»」
相変わらず薄っぺらい声。の割にはイケボ。後ろでは伏黒と誰かが話している声が聞こえていた。戻ってたんだな〜と思いながら「切るよー」と言えば電話相手は「待って待って」と慌てる。
仕方なく要件を聞くと、電話相手である悟はフッフンと鼻を鳴らして「朗報だよ〜」とわざとらしく言う。嘘つけ。
「«今から一年迎えに行くんだけどさ、原宿だからAも来るでしょ?»」
『は? 原宿?』
「«そうそう。恵と昨日入学した子も行くから、顔合わせに丁度いいかなーって»」
『……いや』
「«僕は後で行くけど、恵達には先に行っててもらうから今すぐ来て。伊地知に送ってもらいなよ»」
「じゃ!」と一方的に切られた電話。……私行くって行ってないんだけど。
ツーツーと無機質な音を出すスマホ(伊地知さんの)を呆然と見つめる。ずっと抱き締めていた小説に視線を落とした時、ハッとして今度はスマホを握り締めて叫んでいた。
『っざけんなッ! 私は今から小説読むんだよ! 二冊! 二冊なぁ!!』
「霊群さっ…! ここ書店…! 書店です!」
スマホがピキッと音を立てる。次は伊地知さんが叫んだ。
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片喰 - 五条先生…!一体、何円払ったんだ! 続きが待ち遠しいです! (2021年3月5日 17時) (レス) id: eddf3dedf8 (このIDを非表示/違反報告)
もここ - 面白いです!更新楽しみにしてます! (2021年3月5日 17時) (レス) id: a70ee3e6ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:二見 | 作成日時:2021年2月28日 21時