第27話『ドキドキ』 ページ10
杏奈side
私たちは上杉くんに感心した。
むくれていた若武くんまで、思わず目を輝かせた。
「上杉、すげぇ!」
小塚くんがほっとしたように言った。
「生きて使える数学って、こういうののことだよね」
ほんとに、すごい!
色紙がみんなの手元に回って全員が書き終えると、若武くんがそれを自分のナップザックに入れて立ち上がった。
「じゃ出発」
私はどこに向かうかわからなかったから、とりあえずついて行った。
電車は空いていたので、私と小塚くんと彩ちゃんは座ったけれど、若武くんたち4人は立っていた。
サッカーKZのメンバーは、電車の中では絶対に座らないみたい。
いくら席が空いてても必ずやっている。
それは、座りたい人が乗ってきたとき自由に座れるようにという気遣いと、そして同時に自分達の体を鍛えるためでもあるらしい。
それって、とっても素晴らしいことだと思う。
見習いたいけど、やっぱり席が空いてるなら座りたい。
「見てよ」
小塚くんが囁いた。
「ああしてると、すごく仲良く見えるよね」
若武くんと上杉くんは、肩が重なるほど近くでドアに寄りかかり、黒木くんと美門くんはそばの手すりに体を凭せ掛けて、笑いながら何かを話している。
「いつも、ああだといいのにね」
でも、喧嘩するほど仲がいいっていうし。
いつもはいつもで仲良しなのかも。
私鉄からJRに乗り換え、そして地下鉄に乗り継いで、私たちが降りたところは、銀座線虎ノ門の駅だった。
地下鉄の階段を登りきると、その前に広い道路があって、その向こうに高いビルが沢山並んでいた。
「砂原の会社って、どこにあるの」
彩ちゃんが聞くと、若武くんが答えた。
「黒木の調べによると、虎ノ門ヒルズの近くらしい」
黒木くんが頷く。
「今の東京の、最先端オフィス街だよ」
上杉くんが目を丸くした。
「すっかりセレブじゃん」
私は、なんだかだんだんドキドキしてきた。
中学生になって、社長にもなって、当然私が知っている翔とは大きく変わっている。
もしかしたら私の事なんて覚えてないかもしれないなぁ。
そう思うと、なんだか悲しくなった。
私の知ってる翔じゃなくなっていたら、どんな反応をすればいいのか分からない。
どんな翔でも翔だって分かってるけど、やっぱり変わってしまってるなら困ってしまう。
会えるのは嬉しいけど、なんだか複雑な心境。
翔、私のこと忘れてなかったらいいな。
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澪(プロフ) - 紗奈#さん» ありがとうございます! (2020年7月26日 16時) (レス) id: 2b665a7700 (このIDを非表示/違反報告)
紗奈#(プロフ) - 続編嬉しいです!頑張ってください!! (2020年7月26日 11時) (レス) id: 6ea719cde4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:澪 | 作成日時:2020年7月26日 0時