二十八日目 ページ28
鬱が寝て直ぐ。
Aは鬱の部屋を出ていつものようにベランダに出た。
「なぁ、Aさん」
横を向くとゾムがベランダに立っていた。
「こっち来いや」
手招くゾムに驚き体を止めたが、直ぐにそっちへと向かっていった。
『よい、しょっと...なに？』
首をかしげるAにゾムはため息をついた。
「ほんまに覚えとらんのか」
『覚えてない...？なんのこと？』
「僕の事、覚えとらん？」
不安そうな瞳が影の奥で揺れる。
...あれ。
『会ったことある、よね』
「っ、覚えとるん？」
不安そうな瞳に光がかかる。
嬉しそうに高くなる声にAは驚いた表情をする。
その幼げな行動に思い当たる人物は近所の子供に良く似ていた。
生前でさえ中々会わなかった子。
小学校の頃は一年だけだったが一緒に登校していた仲だ。
子供らしく甘えん坊で天真爛漫だがどこか人見知りで月一くらいメンヘラになる。
...というのも、心配性と言うのも理由になるだろう。
不意に見せる大人っぽさは普段とのギャップを感じさせた。
その子が、こんなに...
Aは目を丸くさせ、やっとの思いで絞り出した声は『大きくなったね』の八文字。
あまりの語彙力のなさにゾムは吹き出した。
しかし、その表情は安心を含んでいた。
少し胸が痛むAに気がつかずゾムは話を続けた。
「ぼく、Aが死んでもうた日、Aに会いに行ったんやで？
約束しとったやん。い、一緒に、遊ぶって」
『...そうだったね』
あの日、ゾムは会いたい、と話していた。
Aも会うつもりではあったが、それも叶うことなく延期に延期を重ね無理も同様だった。
それなのに、神の気まぐれなのかこうして再開できた。
ゾムからしてみればそれは異様であり、それでいて幸福な救済であった。
ただでさえ心配性の彼はAが居なくなってから不安で仕方なかったのだ。
『ゾム』
「な、なんや？お願い事？なんでもええで、僕に任せぇや」
少し興奮しながらAに詰め寄るゾム。
Aはゾムにはバレない程度に数歩下がり適度な距離を保つ。
『鬱を頼みたいんだけど』
「...大先生？」
『気がついてるでしょ。彼の事。』
ゾムはハッとして黙ってしまう。
『...直ぐには何も出来ないと思うの。今迄だって、何をすればいいのか分からなかったんだよね。』
ゾムは苦しそうに頷いた。
『...良い子。お願い、できる？』
「うん」
頷いたゾムにAは微笑んだ。
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作者名：咲々姫 | 作成日時：2021年2月2日 16時
