二十九日目 ページ29
Aは既に寝てしまったのだろうか。
そんなことを考えながら窓の外を眺めるゾム。
昨晩の事を思い出すと不安が胸を支配するが、Aの事を思い返すことだって胸を締め付けられるのだ。
ゾムは目を閉じれば浮かび上がる真っ赤な景色を嫌だと言いたげに首を振る。
何年もゾムを縛り付けているその記憶は未だ消えることがなかった。
唯一消えるのはAと話しているときのみ。
居なくなった瞬間、支えがなくなったように足がふらついてしまうのだ。
「...ムさん、聞こえてますか？ゾムさん。」
ハッとして顔をあげると担任のレウクラウドが心配そうにゾムを見ていた。
「お、おん。聞いとりました」
「聞いてなかったでしょ」
笑いながらレウクラウドがそう言うとクラスの皆も笑う。
女子はぎこちない笑みではあるが。
「さて、この作者ですが〜」
レウクラウドが話し出したのを見てゾムはまた思考に落ちていく。
Aに頼まれた鬱の事。
ずっと鬱が困っていたのは知っていた。
自分を卑下しているのも知っていた。
しかし、ゾム含めいつものメンバーはそれを見て見ぬふりしていたのだ。
理由は簡単。
皆、偽善は好きじゃないから。
偽善、というものがどこまで偽善でどこからが本当の善か、なんて人それぞれ違う。
それでも、皆からして鬱を慰めるのは比較的偽善に近いと感じていた。
守る、だなんて柄でもなく一歩後ろから見ているだけ。
鬱が自分を出来損ない、と感じているのは知っている。
しかし、それは違う。
本当は皆の前にたって、先陣を切って皆を良い方向へと導こうとしているのが鬱なのだ。
皆の前線に立っている。
だからこそ、過ちが人一倍多い。
彼は無意識にそれをしているからこそ勘違いをしてしまっている。
ゾムたちが鬱を弄るのだって、本心な訳ではない。
冗談。
ただそれだけ。
しかし、それさえも鬱を締め付ける呪縛に成りかねない。
「...むっず」
国語の読解とは比べ物にならないほど難しい。
物語はハッピーエンドが最も良いとされているが、そこへと簡単に向かえないのが現実。
人に頼ることだって難しい。
考え方が違う人に協力を要請するのもいいが、メンバーを考えると言い合いが始まるのは目に見えている。
「俺が頑張るしかない...？いや、でも...」
頭を抱えるゾム。
そんなゾムを少し離れた席から同じクラスのロボロが眺めていたことを知る由もなかった。
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作者名：咲々姫 | 作成日時：2021年2月2日 16時
