二十三日目 ページ23
「ほんまは、こんなとこ来るつもりやなかったんや。
ぼくはここに下見に来とらんし、みんながここに行くって言うたから来ただけやもん」
鬱の言葉に黙って頷くA。
月光を遮るようにAが鬱の側へと移動すれば、鬱は少し体を動かした。
少し、安心したように固くなっていた体から力を抜いた鬱。
「...あかんよな、自分で物事考えられへんねん」
そうか、と頷くA。
そのままAは腕を鬱の背中へと回した。
「Aちゃん」
『...なに？』
「ごめんな、こんなどうでもええこと話してもうて」
『...ううん、別にいいよ。』
膝に手を当て立ち上がるAにつられるように鬱は顔をあげた。
『その代わり、そう言う辛そうになったら私でもいいから話すこと。
分かった？』
鬱は驚いた表情をしながらも頷いた。
恐らく意味を理解していないんだろうな、とAは苦笑いをする。
「Aちゃん」
『ん？なに？』
「Aちゃんは、この学校から出られるん？」
『急になんで？』
首をかしげるAに鬱は「いや、なんとなく」と目線をそらす。
『まぁ、出られないけど』
「そうなんやな」
そう頷く鬱に不思議そうな表情を隠せないA。
鬱は一人で理解をして「なんでもない」と言った。
『鬱はさ、それ皆に言ったの？』
「ううん。幻滅されたら嫌やん？」
『...まぁ、確かにね』
しないとは思うけど、という言葉を飲み込みAは頷いた。
『もしも鬱が皆を信じられたら、私は...
いや、なんでもない。やっぱいいよ』
そう笑うと鬱は不思議そうにAの横顔を見た。
しかし、月光に照らされたその顔は白さを一層際立たせ、輪郭をはっきりと捉えていることくらいしか理解できない。
『...鬱、もしもだよ？彼女とか好きな人ができたら、まず私に相談してよ』
「なんでなん？」
『ふふ、なんでも。』
知らなくていいことだよ、と目で訴えるA。
鬱はそれに気がつき、不思議に思いながらも泣かば無意識に頷いた。
『いい子。ほら、もう夜は遅いよ。寝よう？』
「でも...」
『でも？』
眠たそうに鬱は目を擦ったが、まったりとした瞳でAと目を合わせる。
「でも、Aちゃんは一人になってまうやろ？」
鬱の言葉に驚いたのか、Aは目を見開いた。
生気の灯っていなかった深海の瞳は、月光が光を作り出し鮮やかな夜空へと変貌した。
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作者名：咲々姫 | 作成日時：2021年2月2日 16時
