二十二日目 ページ22
夜中、いつものようにAが鬱の部屋へ入ろうとすると中から声が聞こえてきた。
それは鬱ただ一人のもの。
独り言？
にしては、声が大きいのではないか。
違和感を抱いたAは直ぐに部屋へと入った。
『...鬱？』
「ぁっ、A、ちゃん...」
涙に濡れた鬱の顔は悲惨だ。
そんなものより、Aの目線は鬱の手にある紙へと向けられていた。
そこには悪口の羅列。
鬱からそれを奪い取り文字をなぞる。
"カンニング男"、"最低野郎"、"死ねばいいのに"、"生きる価値ない"、"ゴミ"、その他諸々。
『鬱...鬱？』
「っ、ごめん、すまんけど...すまんけど、今は一人にしておいてくれへんか」
嘲笑うようにそう言う鬱。
しかし、その声の芯は細く震え、本音でないことなど簡単に分かった。
『鬱』
名前だけを呼び、鬱の隣に腰を下ろすA。
今日は屋上から見ていなかったし、何があったのか分からない。
「ははっ、一人にしてくれ、言うたやん」
『一人にすんなって顔に紙が張ってあるのよ』
「...そんな、ロボロや神やないんやし」
『それでも。アンタには助けてって書いてあんの。』
「さっきは一人にすんなって言うとったやん」
無駄口を叩く。
少しでも、会話をして気持ちが収まればいいのだけれど、と思いながらAは月を見上げた。
憎たらしいほど綺麗な満月は、Aたちには合わない。
「Aはさ、俺が居らんくても困らんやろ？」
膝に顔を埋めたままそう聞いてくる鬱。
少し目線を鬱に戻したが、直ぐに夜空へと戻すA。
『...私は、困るなぁ』
「あはは、嘘つき。」
鬱のものとは思えないほどの細い声にAは反応が遅れる。
『嘘じゃないよ』
「嘘やで。ぼく、小さいころから見とったもん」
拗ねた子供のように言葉を繋げる鬱。
『何見てたの？』
「女子。顔しか見とらんやん」
『えぇ...まぁ、確かに』
頷くAに鬱は黙ってしまう。
選択を間違えたか、と焦るA。
鬱は膝から目元だけあげた。
「ぼく、アホやんかぁ...やから、親にもあまり好かれてはなかってん。
好きにしてろ、みたいな。
ぼくの心は女子がうめてくれとった。」
何歳くらいのことなんだろう、と思いながら耳を傾けるA。
「付き合って、いっしょに話して、いっしょに遊んで...それだけで、楽しかったんや」
鬱の脳裏に浮かび上がる女子たち。
今となっては、もう連絡をして会うことも話すこともないだろう元彼女たち。
鬱は目線を落とした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：咲々姫 | 作成日時：2021年2月2日 16時
