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誰に似ているのか、
そんな人は、一人しかいなくて。
あの、理想郷の姫だった、彼女によく似てきていた。
その髪も、
いつからか抜け落ちた感情も、
あの姫が、最初から最後までの間に遂げた変化の道筋を、彼女はそのままなぞるように変わっていった。
いつからか、彼には愛情以外の感情を出さなくなり、
大きく笑うことも泣くことも怒ることも無くなった。
男はそれを、少しばかり寂しく思ったけれど…
美しく、優しく、人気者だった彼女が
今から、そして最期まで自分しか視界に入れないのなら、
それほどに幸せなことはないだろうと思った。
彼だけが知っている。本当の彼女を。
皆が、偽りに騙されている間……
彼だけが、嘘偽りない彼女と手を取り、そして死ぬ。
最後まで、世界を騙そうと提案したのは、紛れもない彼女なのだから、
今更、
初めは演じていたものの、いつの間にか演じる必要が無くなるほど感情が抜け落ちていたとしても、
本当は、彼らと共に死にたかったと、思ったとしても…
(そんなことは、許されないし、許さない。)
「似てると、言われたいのか？」
男は立ち上がって、彼女を後ろから包み込んだ。
女は動じることなく目を瞑った。
「さあ、わからない。」
「選んだのは君だろ」
「別に後悔なんてしてません。」
「これが、生まれた時からの君の本性なのか？」
「………」
女は、シンドバッドの回された腕を優しくとって、首だけ振り返り、光の灯らぬ目を細めて笑った。
「だとしたら、つまらない女だね。私って。」
(そう、つまらない女なんだよ、私って。)
「じゃあ、行ってくるよ。」
「気をつけて、シンドバッド様。」
「はは、そんなに彼は異様な事を提案してくるのか？」
「さあ。でも、貴方ならきっと、平気ですね。」
(彼が満足してるのなら、最後まで、そのままで構わない。
でも、
早く、
私しかいらない
と言って。
シンドバッド様。)
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作者名：氷空音 | 作成日時：2022年6月30日 21時
