81 恩師との再会 ページ31
高く打ち上げられたボールを信助がクリア。
「『ぶっとびジャンプ』！」
ディフェンス技──いや、あの勢いは最早シュート！
帝国キーパーも咄嗟のことに防ぎきれず、同点まで追いついた。
焦りが生じたのだろう。帝国は選手全員を自陣に戻し、ディフェンスに徹した。
しかしそれは雷門にとってはチャンス。
「『アルティメットサンダー』！」
先程よりも威力が増したボールが敵ディフェンスに炸裂した。
衝撃で吹き飛ばされる帝国選手。
そしてボールは──凄まじい俊足で自陣から上がってきていた剣城へ。
「『デスドロップ』！」
新たな必殺技か帝国ゴールに突き刺さる。
3-2。逆転だ。
ここで試合終了のホイッスル。
雷門が地区予選決勝にコマを進めたのだ。フィールドもベンチも喜び一色に包まれた。
今回の試合の得点は、天馬、信助、そして剣城。全員一年生という素晴らしい結果を残した。
勝ったんだ。十一人が力を合わせて、勝てた。
はち切れんばかりの喜びを噛み締め、私はぎゅっと自分の拳を握りしめた。
＊
帰り道での私も、どこか浮き足立って小さく鼻歌交じりだった。
決勝に向けた明日からの練習も、より厳しくなるだろうけど……剣城が仲間になった今なら、一丸となって突き進める。そんな確信があった。
そんな風に、私にしては珍しく能天気に歩いていたものだから。
「あの、もしかして……Aさん？」
上機嫌で反射的に「はい」と返事して振り向き──硬直する。
そこにいたのは一人の小柄な女性だった。穏やかそうな物腰、見た目の年齢は四十代半ばほど。メガネの縁が西日の光を受けて光っている。
「鈴木、先生」
鈴木美世子先生。
私に過去五年間、バイオリンを教えてくれた人だった。
先生は私と目が合うと、ほっとしたように笑う。目尻に小さな皺が刻まれた。
「よかった、人違いだったらどうしようかと……元気そうでなによりだわ」
「いえ……はい、先生も。お変わりないようで」
身を縮こませるように頭を下げる。どこを見ればいいのかわからない。
五年前。まともに挨拶もせず、ぷっつりと教室をやめてしまった。それも他人への劣等感が理由で。
どうして声をかけてくれたのだろう。どうして私なんかの名前を覚えていたのだろう。
「今は学校帰り？」
「は、はい。今日は試合で、サッカー部の。自分はマネージャーなんですけど」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 69人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「原作沿い」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
