54 意外な展開 ページ4
いや。
天馬が立ち上がった。ふらつきながら、震える足で。
しかしすかさずボールをぶつけられ、倒れ込む。
また、立ち上がる。攻撃を受けて倒れる。何度も、何度も何度も。
それでも、必ず立ち上がった。
──と、不意に万能坂キャプテンがボールを天馬に渡す。情けのつもりなのか。
天馬はドリブルで切り込んでいくが、すぐさまスライディングが襲いかかる。
その接触点は……足首。
天馬はよろめきかけるもどうにか持ち直し、走り出す。
だが再びのスライディング。まずい、今度は確実に……当たる！
しかし──剣城がタックルで、天馬の身体を突き飛ばした。
それまで傍観していた剣城の突然の行動に、フィールド上の全員が目を見開く。
そして。
「『デスソード』！」
放たれたシュートの向かう先は雷門ゴール──ではなく、万能坂ゴール。
我関せずと余所見を決め込んでいたキーパーの脇をすり抜け、ネットを揺らした。
オウンゴールを帳消しにする同点ゴールに、誰もが何も言えない。
ただ一人、円堂監督だけがこうなることをわかっていたかのように、剣城を信頼の目で見つめていた。
ここで前半終了のホイッスル。得点は1-1。
メンバーが傷ついた身体を引きずりながら戻ってくる。
「霧野、こっち。座って」
私はすかさず霧野を捕まえた。
詰め寄られて一瞬言い淀んだ霧野だったが、観念したように息をつく。
「やっぱり見抜かれてたか」
スパイクとソックスの下の右足首は案の定、赤く腫れていた。
氷嚢をあてがい、「動かさないでね」と言い含める。
「これじゃ後半は無理か……すまない、霧野」
「気にするな、神童。お前のせいじゃない」
霧野のリタイアは戦力的には痛手だ。今の雷門には控え選手がいない。後半は十人で──いや、五人で戦うことになるだろう。
天馬、信助、三国さん、神童、そして……剣城。
「ねえ神童、さっきの剣城のシュートは一体？」
「ああ……『腐ったサッカーを潰す』と言っていたんだ。俺たちの仲間になったわけでもないんだろうが」
腐ったサッカー。目の前で繰り広げられた、サッカーとも言えない乱暴なプレー。
もし剣城が止めに入っていなかったら、天馬の足は確実に潰れていただろう。
ベンチの隅に立っている剣城に目を移す。
やっぱり、芯に真っ直ぐなものを持っているのだ。そうでないと天馬をかばうこともシュートを入れることもなかっただろう。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
