79 十一人目の選手 ページ29
「ちゅーか、なんとか二点で済んだなあ」
「でもこのままじゃ勝てないですよ……せめてアルティメットサンダーを成功させないと……」
速水の言葉に、ベンチの雰囲気が一層沈鬱となる。
「諦めるな! 諦めないやつだけに、掴めるものがある」
円堂監督の力強い言葉を受けても、誰も顔を上げられない。
一体どうすればいいのか。打開する方法が見つからない。
このまま革命の道は閉ざされてしまうのか……誰もがそう思った時。
「俺を出せ!」
突然の闖入者──剣城だった。ここに来ての登場に、メンバーの顔が怪訝に歪む。
息を切らせた剣城の真剣な表情に、神童が冷静に問いかけた。
「今度は逃げないのか?」
「シードじゃない。一人のサッカープレイヤーとして、頼む!」
その言葉に一同がどよめく。
シードとしてじゃない──その言葉を信用していいのか。みんなの顔にはそう書いてある。
けれど、剣城の真っ直ぐな眼差し。いつかの河川敷で私を助けてくれた時の目と似ている気がする。そんな個人的な思い出を掘り起こしていると。
「俺は剣城を信じます!」
真っ先に声を上げたのは天馬。
しかし全員が天馬のように無条件に頷けるわけではない。倉間が反論した。
「剣城はいつも俺たちを苦しめてきた。前の試合で少しは信じられるかと思ったが、その後は練習にも来ない。今日の試合には遅刻する……それで信じられるか?」
「思い出してください、剣城のプレーを。サッカーが好きじゃなきゃ、あんな凄いプレーができるはずがないです。だから俺──信じます!」
私の頭に、入部当初の剣城の姿が過ぎる。渡されたユニフォームを跳ね除けた姿が。
あんな振る舞いをしていても……サッカーを愛する気持ちはプレーに現れていたということか。
「俺も信じよう」
神童が前に進み出た。
それを皮切りに、他のメンバーも次々に頷いていく。
最後に倉間も「一人足りねえしな」と、渋々といった様子で了承してくれた。
こうして剣城の、後半戦参加が認められた。
雷門が十一人揃ったのだ。
*
ベンチ裏で手早く着替えを済ませた剣城に、私はスポーツドリンクの入ったボトルを差し出した。
「走ってきたんでしょう。水分取らないと持たないよ」
剣城は一瞬驚いた表情を見せたが、「ありがとうございます」と言ってボトルを受け取り、半分ほどを喉に流し込んだ。
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作者名:キメラ | 作成日時:2022年2月15日 9時