74 もぎ取る勝利 ページ24
「──やれるもんならやってみろよ！」
三国さんが投げたボールを受け取り、真正面から今岡に突っ込んでいく。
フィジカルじゃ勝てない。相手のペースに呑まれてはいけない。
なら逆に自分の土俵に引きずり込めばいい。駆け抜けろ、翻弄しろ──！
「『サイコワルツ』！」
足元を、紫色の旋律が駆け巡る。
弄ぶようにステップを踏めば──今岡の姿はもう、後方にあった。
「なっ……必殺技？！」
驚愕の声を聞きながら、神童にパス。一人は天馬のマークから抜けられず、一人はあっさり抜かれ、そして。
「『フォルテシモ』──」
左寄りのコースに、相手キーパーは構えに行く。
──右側をがら空きにして。
ボールを取り囲んでいた五線譜が消える。
シュートに見せかけたパスだと相手が気づいた時にはもう遅い。
私の放ったダイレクトシュートは、ゴールネットを揺らした。
「やっ……たああーー！」
天馬が飛び上がって喜ぶのが見える。
ボールが転がり、相手側のペナルティエリア内で止まった。
──勝ったのだ。喜びに肩が上気しかけるのを抑えて、私は踵を返して歩き出す。
信じられないと言うように立ち尽くす今岡の元へ。
「約束。もう二度と私たちに関わらないで」
自分が目立ちたいからといって卑劣な手段で対抗した。あまつさえサッカーを愛することもなく、人を傷つけることでしか自分の優位を示せなかった。
そんな男の顔は金輪際見たくない。
──ここで逆上されたら、その時はその時だと思っていた。すぐ防御できるように腕に力を入れていたのだが。
「……偉そうに命令してんじゃねえよブス」
今岡はそれだけ吐き捨てると、一人すたすたと立ち去っていく。取り巻きたちが名前を呼びながら、金魚の糞よろしくついていった。
終わったのだ。そう思って胸を撫で下ろすと、身体のあちこち──ボールをぶつけられたりした部分が急に痛み出した。
「A！」
みんなが駆け寄ってくる。
喜色、安堵、羨望。それぞれの顔にそれぞれの色が浮かんでいたが、私は何より先に頭を下げる。
「──ありがとうございました」
みんながいなかったらどうなっていたことか。
たかがマネージャー1人の私情のためにここまで付き合ってくれたことには感謝しかない。
おかげで断ち切ることができた。自分の中でひとつケジメがついた。そう伝えると、神童は笑ってこう言った。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
