75 肉親の情 ページ25
「確かに俺たちは協力はしたが……A自身が決意してやり遂げたことだろう？ もっと胸を張っていい」
その真っ直ぐな言葉に、ふっと肩の力が和らいだ。
「ありがとう」ともう一度だけ言って微笑む。神童も頷き返してくれた。
「かっこよかったです、A先輩の必殺技！」
「ああ。土壇場であんなものを見せてくれるとは思わなかった」
続いて天馬と三国さんに賞賛され、耳が熱くなるのを感じる。
昔なんとなく形になりかけていた技が今完成するなんて、自分でも思っていなかった。嬉しい誤算に今更ながら喜びが湧いてくる。
と、フィールド外から近寄ってきたのは小学生たち。
「お姉ちゃんたちすっげー！」
「ほんとに勝った！ やったあー！」
こちらに飛びかからんばかりに喜ぶ子どもたちに、私たちの頬は緩む。
初夏の風がまるでワルツでも踊るように、河川敷を駆け抜けていった。
＊
帰ってきた私の姿を見た姉は甲高い声で叫んだ。
何事かと思い下駄箱の上に置いてある鏡を見て──ああ、と声を上げる。
右頬が痛々しく腫れていた。ぶつけられた後すぐに冷やすこともできなかったから、患部が熱を帯び始めているのだ。
「ええええなんでなんでなんで？！ 遊びに行ってたんじゃなかったの？！ どこの誰にやられたっていうの？！ 警察には言った？ 暴行罪じゃん傷害罪じゃんAの綺麗な顔をこんな無惨なことにしてさあああ！！」
半狂乱の姉に保冷剤をあてがわれ、痛みに顔をしかめる。
今にも犯人を捕まえようと家から飛び出しそうな姉の肩を押さえ、どうにか弁解する。
「サッカーしててしくじったの」
姉の動きがぴたりと止まった。そうして不思議そうに、まじまじと私の瞳を覗き込む。
「サッカー？ プレー……してるの？」
「してるの。たまに、部のみんなと」
姉が知っているのは、私が昔稲妻KFCのチームメイトを殴って退団した、ということだけだ。
──そう、思っていたのに。
「……じゃあ今度は本当に、自分のためだけにプレーするんだよ。お姉ちゃんのことを馬鹿にされたからって、そんなのほっときゃいいんだからね」
勢いよく顔を上げる。整った姉の顔は少しだけ切なげに歪んでいた。
──母さんから聞いたんだ。メールか電話で、知らされたのか。
「あ、でもAが馬鹿にされた時は別！ すぐに言うんだよ！ お姉ちゃんがすぐぶっ飛ばしてあげるから！」
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
