76 残る未練 ページ26
迷いなく言い切った姉の顔を見て、私は思わず吹き出す。笑うと頬の怪我に響いたが、構わなかった。
──嗚呼、やっぱり姉妹なんだなあ。
「ありがとう、お姉ちゃん」
いつも私のことを好きでいてくれて。
直後、猛烈な勢いで抱きつかれたのは言うまでもない。
＊
一週間後。帝国戦当日。
アルティメットサンダーは完成しないままだった。ダメ元だとしても本番に賭けるしかない。やれるだけのことはやったのだ。
帝国学園はまるで要塞のような物々しい雰囲気を醸し出している。
スタジアムへの荷物の搬入をしている最中、私は人混みの中に見知った顔を見つけた。雷門の制服を着た男子二人──一乃と青山だった。
「来てくれたんだ」
近寄って声をかけると二人は驚いたように顔を上げたが、すぐに逸らされる。
ほんの少し、話しかけたことを後悔した。退部した部のマネージャーになんてあまり顔を合わせたくないだろうから。
「ああ、やっぱり気になってな。相手は帝国だし」
「それに風の噂で聞いたんだけど……今の雷門、フィフスセクターに逆らってるって……」
一乃と青山がそれぞれに言って、不安そうに顔を見合わせる。
帝国、フィフスセクター。敵は強大、一筋縄ではいかないだろう。でも。
「それは本当。私たちは指示に逆らってここまで勝ち進んできた」
天河原戦、万能坂戦。みんなで力を合わせて勝利を掴んだ。
「自由なサッカーを取り戻すって決めたの。ここで負けるわけにはいかない」
後に引けないなら前に進むしか道はない。諦めなければ勝機はある。
二人は驚いた様子でしばし瞬きを繰り返していたが、やがて一乃が口を開いた。
「なんか、A……雰囲気変わったな」
今度は私が面食らう番だった。多分、褒め言葉として受け取っていいのだろう。
──確かに、仕方ない、どうしようもないと諦めていた頃の自分と比べれば、変わったかもしれない。
「変わったとしたら、それは多分私だけじゃない。雷門のみんなも同じだと思う」
天馬と出会って、円堂監督がやってきて、神童の決意が皆を後押しして。そうやってチームが少しづつ、同じ方向を向いたのだ。
その時。Aちゃーん、と呼ぶ茜の声が遠くから聞こえてきた。そうだ、まだ搬入が済んでいなかった。
「じゃあ」
短く別れの言葉を告げ、私は自分の業務に戻った。
──部に戻ってこないか、なんて無責任なことは言えない。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
