69 暖かな出迎え ページ19
「あ……ここ、うち」
そのまま無言で歩き続けていたら、いつの間にか家の前に着いてしまった。
換気口からはシチューのいい香りが漂う。明かりがついているのは一階だけだった。
「ごめん、結局最後まで送ってもらっちゃって」
「気にするな。じゃあ、また明日──」
その時。突如玄関ドアが開き、サンダルを突っかけた姉がものすごい勢いで飛び出してきた。
「げっ」といつもの反応をしたのは私。反射的に逃げ出そうとしたところを、熱烈な抱擁によって捕えられる。
「A〜〜っ今日も遅かったじゃん何してたのこんな暗い時間まで！ 私今から稲妻町中を駆けずり回ってAのこと探そうと思ってたんだからぁ！！」
息ができない。肋骨が折れそうだ。
ちらと神童を見やる。苦笑い。お願い、そんな目で見ないで。むちゃくちゃ恥ずかしい。
「ん？ あれ、神童くんなんでここに？ あ、もしかして送ってきてもらったの？ うわ〜〜ありがとう！ よかったよかった！ そうだ、お礼にご飯食べて行きなよ！ シチュー好き？ ホワイトシチュー。私じゃなくてお母さんが作ったやつだけど。おかーさーんシチューあと一人分余るよね？！」
再び家に舞い戻る姉。解放された私は盛大にため息をつく。
「なんで本人の答えも聞かずに突っ走るのかね」
「ははは……でもそうだな、せっかく誘ってくれたし、お言葉に甘えさせてもらってもいいか？」
「ああ、うん。うちは別にいいよ」
それから神童は携帯で自宅に電話していたが、二言三言会話してすぐ終わった。了承は取れたらしい。
──なんか、変な気分だ。神童がうちに来るなんて。
昔は私の方が神童の家にしょっちゅう行っていたからか。あの屋敷に比べるとうちなんて犬小屋もいいところだ。
「おじゃまします」
「どーぞどーぞ！ はいこれスリッパ。新品未使用品だから安心してね。二人とも先に手洗っちゃって！」
言われた通り手を洗ってダイニングへ行くと、もう用意があらかた整っていた。
具沢山のホワイトシチューに付け合わせのサラダ、テーブルの中央にはカットされたフランスパン。
「あら、いらっしゃい──」
エプロンで手を拭きつつやってきた母さんは神童の姿を見て目を丸くした。
そりゃそうだ、まさか連れてきた友達が男子だとは思うまい。
神童は母さんに、慇懃に頭を下げる。
「お久しぶりです」
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
