310 時間の流れ ページ3
「え、いいよそんな……」
「気にするな。どうせ方向は同じなんだし」
眉をちょっと上げて笑ってみせた神童の表情に、心臓が高鳴る。
最近分かったのだが、どうやら私は好きになった相手の一挙手一投足をじっと見つめてしまうタイプらしかった。それでいちいち、鼓動が速くなる。神童に悟られていませんようにと願うばかりだった。
結局お言葉に甘えることにして、二人で並んで歩きだす。
三ヶ月経ったが──もちろん神童との関係も良好だ。
一緒にサッカーしたり、神童の家にお邪魔して一緒に演奏したり、そして週末に……二人で出かけたり。
どこにでもいる、ありふれた恋人同士のような日常が、たまらなく愛おしい。
河川敷のそばの道まで来ると、フィールドではさっきすれ違った一団がサッカーをしているのが見えた。
私たちは示し合わせたわけでもないけれど、しばらくそのミニゲームを観戦していた。子供たちは汗だくになりながらも、活き活きとした表情でボールを追いかけている。
サッカーの魅力が広まっていくのを、こうして感じることができる。こういった光景を見ると、革命を成し遂げられてよかったと心から思うのだ。
フィールドから隣にいる神童に視線を移し、私はふと、あることに気が付いた。
──なんだか、神童の頭の位置が高い気がする。一昨日に会った時にはこんなこと感じなかったのに。
神童は私の視線に気づいて首を傾げた。私は自分の思ったことを正直に伝える。
「背、伸びた?」
神童はエコバッグを持っていない方の手で、自分の頭を触った。そうすることで身長がわかるわけではないけれど、その仕草がなんだかおかしかった。
「言われてみれば……確かに、そうかもな」
春の私たちの身長はほとんど変わらないくらいで、同じ目線の高さで話をしていた。
でも、思えばこうなるのは当たり前かもしれない。私たちは成長期の真っ只中で、特に男子はこれからぐんぐんと身長が伸び、筋肉もついていくはずだ。
ずっと同じ時の中にいるような気がしていたけれど、時間は着実に過ぎているのだと感じた。
「このまま神童の背がどんどん伸びてったら私、神童のこと見上げなきゃいけなくなるんだね」
「そうなるな。 ……嫌か?」
「嫌とかではないんだけど、なんか不思議だなあって。気持ち的にはまだまだ子どもなのに、身体は大人になってくなんて」
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作者名:キメラ | 作成日時:2022年11月2日 10時