321 偽りの時間 ページ14
第一グラウンドに集められた一同は、何も無い空間から空飛ぶキャラバンのようなものが出現するのを見た。
さらにその運転席から、水色のボディをした喋るクマが出てきたものだから、自分たちは夢を見ているんじゃないかと感じたのだった。
喋るクマ──ワンダバは、天馬が経験した一連の出来事、フェイのことなどをかいつまんで説明した。
しかし、パラレルワールド、インタラプト、タイムジャンプ……聞き慣れない言葉と複雑な事情。それらをすぐに飲み込むことは不可能だった。
頭を抱える部員たちに、優一が落ち着いた口調で言う。
「いきなりこんなことを言われて驚いたと思うけど、今聞いたように、俺は偽りの時間の中で生きている。彼──天馬くんの知っている俺が、本当の俺だ。
だから本当の俺を取り戻して、サッカーを京介に返してやりたいんだ」
偽りの時間。
部員たちは考え込んだ。今自分がいる世界線が偽りのものだとは、とても信じられなかった。
「それに、さっき天馬くんが言っていた……AAさんも、本来はサッカー部にいるはずの存在だったみたいだね。
京介とAさん──この二人を取り戻してこそ、雷門中サッカー部は本来あるべき形になる」
「そうだ、神童先輩。えっと……今の神童先輩は、A先輩と仲がいいんですか? A先輩は、今この世界線ではどんな人物なんですか?」
天馬に突然尋ねられ、神童は一瞬面食らったが、自分の記憶の中にあるAの姿を正直に語る。
「仲は、いいと思ってる。コンクールなんかで何度も共演してるしな。俺がピアノで、Aがバイオリンで……。あいつは音楽に対してすごくストイックだ。『自分にはこれしかない』って言っていたくらいだからな」
──やっぱり、ここは間違った世界なんだ。
天馬の知るAも確かにバイオリンをしていたし、一度神童とのアンサンブルを生で聞いたこともある。
ただ……『自分にはこれしかない』というその言葉は、天馬にとっては分厚い壁のように思えた。
「今調べてみたんだけど……少し奇妙なことになっているみたいなんだ。そのAって人の分岐点──と言うか、Aさんの存在そのものに、不可解なエネルギーが干渉しているように見えるんだ」
フェイの言葉に、天馬の中で焦りが加速した。
──不可解なエネルギー。フェイにもわからないこと。今までしてきたようなインタラプト修正が、もし通じなかったら。
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作者名:キメラ | 作成日時:2022年11月2日 10時