35 漏れた本音 ページ35
「もう半分は……？」
「神童のプレーをもっと見たい」
口に出したら、不思議とざわついていた心が少し落ち着いた気がした。こっちが私の本心なのだろうか。
松風の行動も私の気持ちも、神童からしたらいい迷惑だろう。自分が下した決断を真っ向から否定されているのだ。
だけど、そうだとしても。
「そうですよね。俺もキャプテンに、これから色んなこと教わりたいです！」
「うん──あ、ここ」
突如現れた、豪奢な門構えを指さす。
現れたのは豪奢な屋敷だった。線対称の見事な建物の前には、汚れ一つない噴水と、等間隔に植えられた木々が並んでいる。
五年前はこんな場所にずっと通っていたのかと思うと、当時の自分の肝の太さに感心する。それだけ仲が良かったのだ。
「家っていうよりお城だ……」
「呼び鈴押すよ」
呆ける松風の横から手を伸ばし、これまた高級感のあるインターホンを押す。
少しして応じた女性の声──多分メイドさんだろう──と二言三言会話をした松風は、門に手をかける。門前払いは免れたようだった。
「A先輩は来ないんですか？」
「私が行っても無駄だと思うから……ここで待ってる」
松風の言葉の方が、神童には効くだろう。
本当は道案内だけして帰るつもりだったのだが……自分の中に、僅かな心境の変化が表れていた。
敷地に踏み入る松風の背中を見送りながら、私は門柱に身体をもたせかけた。
＊
十五分くらい経っただろうか。
物音がして見てみると、屋敷から神童と松風が出てくるところだった。
日を追うごとに、神童の顔に落ちる影はどんどん暗くなっているようにも思えた。
「今から河川敷に行くんです！ キャプテンのフォルテシモが一度見てみたくて」
門から出てきた松風の言葉に、神童は初めて私の存在に気がついたようで、驚いたように目を見開いた。
多分、松風の熱意に根負けしたのだろう。そういう顔をしている。
河川敷に向かって歩き出す天馬の後ろを、静かについていく。
「お前が連れてきたのか」
前を歩く松風を見ながら、神童が言う。責めているような声色ではなく、むしろ諦観の方が強かった。
「道案内しただけ」
「それを連れてきたと言うんだろう」
その通りだ。言い訳するのを諦め、前を向く。
無言のまま数歩進み──そして、意を決して声を上げた。
「神童は、サッカー好きなんでしょ」
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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります！ マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました！主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月3日 23時
