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34 突如の離反 ページ34

その予感は的中した。


「神童が……やめた?」


翌日、昼休み。霧野から告げられた事実に、唖然とする。


「ああ。さっき監督に退部届を渡して帰ったそうだ」

「そんな……」


栄都戦での責任を取って、ということだろうか。


──神童が悩みに悩んで決めたことなら。でも、やめるだなんてそんな。

ふと、フィールドで指揮者のように采配を振るう神童の姿が思い浮かぶ。

洗練されたプレー。神のタクト。


ぐっと拳を握りしめる。

神童に対して感じていたのは劣等感だけじゃない。

憧れ。私は──神童のサッカーに憧れていたのだ。

そんな単純なことに、今更気がついた。





放課後。練習が終わって荷物をまとめていたら、目の前を小走りで松風が過っていく。

──やけに急いでいるみたいだけど、この後何かあるのだろうか。

ふとベンチに目を向け、そこに青いスパイクケースがあるのに気がついた。『松風天馬』というネームタグ付きの。


「松風、スパイク!」


ケースを持ち上げて叫ぶと、松風は百八十度方向転換して、照れくさそうに頬を掻きながら走ってきた。


「すみません、ありがとうございます!」

「この後なんかあるの? 急いでたけど」

「俺、今からキャプテンの家に行ってみようと思うんです。ちゃんと話がしたくて」


出てきた言葉に、顔を上げる。

話──この様子からすると説得に行くのだろう。やめないでくれ、と。

しかし。


「神童の家、知ってるの?」

「あ、えーっと……」


知らないんだ。それなのに走っていこうとするあたりが、なんというか松風らしい。

私は数秒迷って、ぽつりと零す。


「案内ならできるよ」

「いいんですか? お願いします!」


案内、するだけ。

門前払いされたら、その時はその時だ。

あの馬鹿でかい屋敷を思い浮かべながら、私はそう考えていた。





「A先輩も、キャプテンにやめてほしくないですよね?」


道中。

松風にそう問いかけられたが、すぐに返事することはできなかった。

自分の気持ちを整理しきれていなかったのだ。松風のように、自分の意思をすぐ行動に移せるような決断力は羨ましい。


「……半々」


十秒ほどして、ようやくそう漏らす。


「神童は……ずっと悩んでた。一人で責任を全部背負おうとしてた。考えて考えて、考え抜いた結果がこれなら……その気持ちを尊重させてあげたい、って思う──のが半分」

35 漏れた本音→←33 不思議な魅力



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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります! マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました!主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:キメラ | 作成日時:2022年2月3日 23時

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