24 ひたむきな愛情 ページ24
「ただいま……」
玄関を開けると、肉じゃがのいい匂いが鼻腔を刺激する。同時にお腹から間抜けな音が鳴った。
「おかえり。ご飯先に食べちゃって」
「うん」
手を洗い、着替えるのもそこそこに食卓に座る。長く細い溜息をついてから、いただきますと手を合わせた。
「どうだった?」
「うーん……人に何か教えるのは難しいってことがわかった」
口だけじゃなくて実際にやって見せてあげればよかったとか、なんでこの仕事が必要なのかの根拠を先に言えばよかったとか──反省点はいくらでも出てくる。
あとは……もっと笑顔で接せればよかった、とか。
「そうね。教えるのと教わるのとでは、理解のギャップがあるものね」
理解のギャップ。
相手は初めてで、何も知らない。こっちが感覚でやっているようなことも、もちろん説明しないと理解できない。
──明日は上手く教えられるといいんだけど。
「そういえば……メール返してくれないって寂しがってたわよ、お姉ちゃん」
箸の先から、摘んだじゃがいもがポロリと落ちた。
お姉ちゃん。戸棚の写真立てに一瞬だけ視線をやる。
十歳上の姉。去年就職して、家を出ていった。
「……サイレントにしてるから」
「あら、なんで?」
「だって毎日何通も何通も送られてくるんだもん、うるさくて仕方ないよ」
真面目に働いているのかと疑うくらい頻繁に届くメール。
しかも文面までうるさいのだ。文字数制限ギリギリまで打たれた文章は読む気にもなれない。
離れて暮らすようになって、やっとあのマシンガントークから解放されたと思ったらこれだ。
「お姉ちゃんは本当にAのこと大好きなのねえ」
「いい加減妹離れしてほしい」
「まあいいじゃない、たった一人の姉妹なんだし……この後電話してあげたら?」
「ええー……」
こっちも疲れているのだ。あのハイテンションに付き合う気力はない。
緩慢とした動作で、私はじゃがいもを口に運んだのだった。
*
とはいえ。
さすがにそろそろ相手してあげないと、今度はそろそろ鬼電がかかってきそうだ。
風呂上がり、ベッドに直行したくなるのを何とか我慢し、ケータイを手に取る。
アドレス帳から『純』と登録された番号を呼び出し、一瞬躊躇ってから発信。
……ワンコール目で出た。この姉は自分のケータイを右手に縫い付けてでもいるのだろうか。
103人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります! マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました!主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:キメラ | 作成日時:2022年2月3日 23時