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【 御幸視点 】
悔しくないわけがない。
俺が世界で一番好きな人。
世界で一番、俺に好かれてる人。
…先輩に取られるなんて。
いや、取られるというか、元々はその人を
Aちゃんは愛してたわけだけど。
Aちゃんの前では余裕そうに振る舞ったけど
俺は内心複雑な感情でいっぱいだった。
妙にイライラして仕方ない精神を落ち着かせようと
朝練前、バットを持って寮を出る。
数も数えず無心に素振りをしていると、
「御幸」と背後から声がかかる。
「…哲さん……」
「駄目だな、そんな振りじゃ。何も考えないのではなく、脳内で相手ピッチャーをイメージするんだ」
悩みの源である人物は、俺にアドバイスをしながら
自分も隣に立ってバットを振り始めた。
「おはようございます、早いですね」
「ああ。マネージャーはくるのが早いからな。
必然と俺も早く来ることになるだろう？」
この発言の意味が俺にはすぐわかった。
いつも天然の哲さんからは感じられないほどの
挑発的な態度だ。
この人は俺がAちゃんを好きなのを知っている。
普段はとても尊敬できるかっこいい人だからこそ、
悔しさが増すのかもしれない。
「ああ、一緒に登校してるんすね」
「家も近いしせっかくだからな」
気にしないふりをして素振りに集中していると、
今度はハッキリと、俺の目を見て哲さんは言った。
「…悔しいか？」
「はい？」
「今は悔しいだろう。…だが、安心しろ。今だけだ」
俺はその言葉の意味が全くわからず
「どういうことすか？」と率直に聞く。
まっすぐな視線は変えずに
少し優しい表情になった哲さんはまた口を開いた。
「神様は、最後はお前に笑うさ。
そして俺はいつかお前に謝ることになる」
意味深な言葉だけ残して去っていく哲さんの背中は
なぜだかすごく寂しそうに見えた。
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作者名：志季 | 作成日時：2018年12月2日 0時
