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「…河井?」
一也が渋々帰ったあと、
残ったマネ業をこなしている私の背後から
聞き覚えのある声がして、ふと振り向く。
「結城!」
「お前、こんな時間までマネージャーの仕事していたのか?もう暗いじゃないか」
「いや…帰るついでだし、帰っても暇だし、あはは」
日課の素振りも終わり、もう帰るつもりなのだろう。
エナメルバッグを肩にかけブレザー姿の結城は
「送る。待っているから準備しろ」とその場にドンと座った。
「ありがとう。じゃ、着替えてくるね」
結城とは中学が同じなだけ家も近い。
寮生活の部員に「送る」と言われた時は申し訳なさもあり断ることもあるが、結城の場合はお言葉に甘えることにしている。
…断っても、「駄目だ。危ない」と拒否権をくれないのも理由の1つだけども。
マネ室に入り、ババっと速攻で着替えて帰る準備を済ませ、マネ室の外の地面に座って待つ結城に「お待たせ」と声をかけた。
「早いな。行くか」
「急いだからね。うん!」
周りから見れば私たちなんてカップルにしか
見えていないだろう。
中学生の頃の私なら、この状況をただアホみたいに
きゃっきゃ言って喜んだんだろうが…
今はそういう風に彼を見ていない、
見れない、というか。
「河井、マネージャーの仕事は慣れたか?」
「慣れたかって…もう1年経つんだよ?逆に聞くけど結城は練習慣れたの?」
「慣れた?もう1年経つのにか?」
「同じこと聞いてきたのそっちでしょ」
クスクスと笑いながら指摘すると、
首を傾げてしばらくして「ああ」と納得したように頷く結城。
昔から変わらない。
けど、練習に挑む結城の姿は真剣で格好良くて、
その姿から逆に、好意より尊敬の念が今は勝っているのかもしれない、と感じた。
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作者名:志季 | 作成日時:2018年12月2日 0時