――49 ページ13
.
でも、意外にも社長は「それって」と言葉を返してくれる。
「うちで探してる男？」
「……そうです」
一瞬だけ悩む。
けど頷いた。
捜索を依頼している以上隠していても仕方ない。
「そうか……ごめんね、まだ情報も何もなくて」
「いいんです。自分でも見つかって欲しいのか何なのか、わかんないので」
私は肩をすくめて見せた。
よくわからないというのが私の本心だし、それ以外に説明もしようがない。
社長は「そう」とだけ呟くとグラスに口をつけた。
そのまましばらく黙ってグラスを傾ける。
私も真似してグラスに口をつけて、ウイスキーを喉に流し込んだ。
社長が動いた気配がしてちらりと目をやると、社長はソファに片足を立ててそこに腕を乗せていた。
伸ばした手の先にグラスをぶら下げるように掴んでいる。
社長が手首を揺らす。
カラカランと氷が音を立てた。
どこかを見つめている。
考え事でもしてるのかもしれないから、私は邪魔をしないようにすぐに視線を前に戻した。
意味もなく喉に送り込むお酒に頭が少しずつふわふわとし始める。
落とさないようぎゅうとグラスを握りしめてちびちび飲んでいたら、社長の低い声がした。
「ねぇ、その男のことが好きなの」
「え？」
「探してるその男、好きだから探してるんじゃないの？」
社長の方へ顔を向ける。
社長は膝に乗せた腕越しに首をひねって私を見ていた。
どこか怖い雰囲気に私はたじろぐ。
言葉がすぐに出てこなかった。
「それとも、恋人？」
もう一度社長が問いかける。
私は慌てて首を振った。
「ち、違います」
「でも君は、見つからなくて落胆して、あんなに元気がなくなるんでしょ」
「……それは……」
社長の目が私の目を覗き込んでいる。
お酒が入っているからか少しだけ落ちた瞼のせいでいつもより細い目は愛嬌が影を潜めていて据わっているようにも見える。
「……私にも、よくわかってないんです。この気持ちが何なのか」
「…………、そう」
社長は長い沈黙の後低い声でそう言った。
時計の針の音が聞こえる。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 525人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やっち(プロフ) - 続き待ってます❗ (2021年11月9日 5時) (
レス) @page18 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年9月20日 21時
