102.落花流水 ページ6
「貧乏で父親は博打好きだったけど、恵まれてたと思うよ。親には。」
「花魁になりたくてなった人はほとんどあのお店にはいなかったし。」と傍に合った小石をけりながら橘は言った。俺はそもそも物心ついた時にはもう一人だったため、親が誰かなんて知りもしないし、知りたくもない。一人で生きていくのはすごく大変だったが、親がいる奴にもそれなりに苦労はあるのだろう。橘はいい例なのかもしれない、詳しくは知らないが。
「……さっき笑ったのは…」
「え?」
何のこと?、というような顔をした橘。俺は少し口をとがらせて、「さっき…笑ってただろ?俺が離れる前。」と言えば、「ああ…」と何かを思い出したようにまた笑った。
「気にしないで。土方さんのこと思い出して笑っただけだから。」
その瞬間、もやっ、とした黒い感情が心の中を占めた。ほんの数か月前まではこんな感情抱かなかったのに。何ならこんなやつ好きにならないと高を括っていたのに。
まだ酔いがまわっているのか少し吐き気が襲ってくる。しかしそんな俺には気が付いていないようで橘は「この間なんかもね…」と楽しそうにあのむかつくマヨネーズ野郎の話を続けている。
少し空いた俺たちの感覚が妙に切なくなって、俺は吐き気を我慢しながらふらふらした足取りで彼女を追いかけると、がしっと右手をつかんだ。もう夜だからか少し冷たい。
「銀さん…?」
いきなり掴まれた腕の多少なりともびっくりはしながら、俺にまっすぐ視線をむけた橘。「ほんと、どうしたの?」と俺をのぞき込むと額に手を当てる。
「もしかしてまだ「土方君の事好き?」
じっと彼女を見つめてそう言えば、怪訝そうな顔をしたが、「うん…好きよ?」とあっさり答えを出される。
「男として?」
「…それどういう意味…」
「恋愛感情として好きなのかってこと。」
「え…ちょっと、銀さん…」
するりと指に手を絡めるとそのままぐいと彼女の腰を引き寄せた。視線はずっと彼女から外さず、自然に抱きしめる。
暗くてもよく分かったのは先ほどと違って彼女の顔が赤く、それも困惑したような表情をした事。こつんと自分のおでこを彼女のそれにぶつけるともう目と鼻の先。
「ぎ、銀さん…」
「明宮君?とは付き合ってるのか?」
「ど、どうしたのさっきから…近い、離れて…」
思わず腰を引いた彼女を逃がさないように腕に力を込めて。「答えろよ。」と小さくつぶやいた。
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narumi(プロフ) - いつと楽しく読ませてもらっています(*^^*)とても続きが気になります♪応援しています! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 5cd2b1b9c5 (このIDを非表示/違反報告)
conny(プロフ) - 続き気になる!楽しみにしてます! (2021年2月3日 15時) (レス) id: 9be2d294c2 (このIDを非表示/違反報告)
気空(プロフ) - とても素敵なお話でシリーズ一気読みしてしまいました……! 夢主と銀さんの絶妙な距離感の変化がたまらんです。こういう夢主ちゃんあまり見かけないので巡り会えて嬉しい……陰ながら応援しております! (2021年2月3日 7時) (レス) id: 413d1f6892 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:咲 | 作成日時:2021年2月1日 20時