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27.馬と犬 ページ29

「はい、武州行きね。左の階段から3番ホームに。」
「ありがとう。」

江戸↔武州、とでかでかと書かれた切符を握りしめてAは言われた通り左手の階段を一段登ったところだった。3番、3番、とホームの番号を探すAの足取りは少し重かった。

結局、あのまま近藤に押し切られてしまったAは隊士の選別のために武州に向かっていた。足取りが重いのはそのせいか、それともはじめて一人で電車に乗るからかどちらかなのかはわからなかった。


『人の恋路を邪魔する奴は馬にけられて死んじまえ』

これが近藤がAに言い放った言葉だった。

あのまま討論を続けていたらきっと近藤が今ここにいるはずである。だが、近藤が最後に目に涙をいっぱいにためながらAに言い放った言葉はAにとっては衝撃的だった。

きっとAでなく、これがほかのだれかだったなら近藤の負け犬の遠吠えで終わっていたはずなのである。しかし、変なところで学のないAはこの言葉をうのみにしてしまった。くしくもAが近藤にそういわれていった言葉は「それは困る!」だった。

「馬にけられたらひとたまりもないな...。」

ぶるっと思い出したかのように身震いをしたAのほかに武州行きの電車に乗っているものはいなかった。がらがらの電車はより一段と跳ねるような気がする。

ガタタタン、ガタン、と規則的な音をBGMにAは目を閉じた。




『いつか、私も人間になれる日が来る?』

幼き少女は無垢な瞳で隣で手をつなぐ彼を見上げた。彼は少し困った顔をして『そんなことないんだよ。』と彼女に告げる。

『でも...』とうつむいてしまった少女だったが彼は優しくぎゅっと手を握った。彼女の首からかけられたそれは透明に静かに彼女のことを語っていた。だけれどもそんなこと彼女は知らない。

『明日は晴れるといいね。』

空は一面青空が広がっているのに彼はそんなことを言った。

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作者名: | 作成日時:2017年5月15日 15時

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