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ページ13

和典は戸惑いながら、ハンカチを貸そうとポケットを探る。だが、今は全身びしょ濡れなのを思い出し、諦めた。こういう時の対処法が分からなくて、和典は困惑して少女を見つめるしかなかった。

 少女は、暫くして泣き止んだ。赤い瞳で、和典を見つめる。



「……初めて、そんなに優しい言葉を貰ったんだ。
あなたは、とっても 優しい人なんだね」


 自分が優しい?思わず「そんなことない」と首を横に振る。少女は「そうだよ」となおも主張した。


「優しいだけじゃない。真面目で、繊細で、凄く潔癖なんだ。
羨ましい」

 全く感じなかった自分に対しての感情に、戸惑いしかない。真面目で、繊細で、潔癖などと、自分とは最も遠い所にある言葉だと思うのだが、少女の目にはそう映るのだろうか。


「それ言うなら、俺の方こそ、お前が羨ましい。
女っぽくないほど強いし、芯がしっかりしてるし」

 褒めてるの?とまた笑った。和典は、よく笑うんだ、と感じた。でも、気に障る笑い方じゃない。イラッとする感じでもない。本当に綺麗な笑い方___そこまで考え、思考を強制終了させる。何考えてるんだ、俺は。

 さっきからだ。何故か心臓がうるさい。その笑顔に、何故か引き込まれてしまう。もう一度笑わせたいと思ってしまう。少し首を傾げるのが癖なんだろうか。そういう部分に気付き、可愛いと思ってしまう。

 変だと思った。本当に風邪でも引いたんだろうか。でも、悪い感じじゃない。


「そういえば、名前を聞いてなかったね。あなた、名前はなんていうの?」


 また、小首をかしげた。露わになる細い首から目を逸らして、答える。

「……上杉、和典」


「上杉君、ね」


 まるで練習するかのように呟く少女。その『上杉君』という言葉が何故か耳にこそばゆくて、意味もなく照れてしまう。

 照れ隠しに、ぶっきらぼうに問いた。

「お前は?」
「私は、立花彩」


 立花彩。立つ花に、彩___どこか彩らしい雰囲気を纏っていると感じた。


 立花、彩

 何度か 心の中で呟く。



「えっと___今更だけど、よろしくね」



 少し照れたように笑う少女___彩。

 そのはにかんだ赤い表情を見ながら、和典は頷いた。

 きっと、一生忘れない名前だと思えた。



*おわり*

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とらい - 親子の関係やそれについての悩みがすごく共感できました。どうしてこんな素敵なお話を書けるのだろうと尊敬します。KZのみんなでも相談できそうですが彩の兄の祐樹さんも親子関係に苦しんでそうなので、上杉くんの良い相談相手になるのではと思いながら読んでいます。 (2019年11月11日 16時) (レス) id: 6a44c88143 (このIDを非表示/違反報告)
ハナ - La merさん» うん…今更新したとこでも、ボロクソ言ってますよ。まあ上杉君がびしっと言ってしまいますのでね←少々上杉母が不憫になるほどね。まあ、更新を見ればわかる!そして、とうとう完結だぜい(*´ω`) (2017年4月5日 21時) (レス) id: d317c487ea (このIDを非表示/違反報告)
ハナ - La merさん» 結婚だぜい☆あら、申し訳ない。そう、影の薄いお父さんは、きっとかかあ天下の元でひっそりと生きてきたのよ←息子の理解者だけど、そこまで協力してくれてない…的な。まあ空気の存在だと思って下されば←買ったのよ。ささやかだけど、可愛すぎる家を!(笑) (2017年4月5日 21時) (レス) id: d317c487ea (このIDを非表示/違反報告)
La mer - 式を挙げるって……!! 挙げるって……やだアーヤ可愛い(おい)そして、アーヤを「あんな子」だってっ!? いくら上杉の親だろうと、そんな言い草は私が許さないよ。アーヤは美人で成績良くて天使で純粋で謙虚で……言うとこなしじゃないかっ!! どこが不満なんだ? (2017年2月17日 22時) (レス) id: c06852ffd8 (このIDを非表示/違反報告)
La mer - け、けけけ(動揺パニック唖然呆然)いやぁ、すっかり同棲だと思ってた私よ← そして恐らく、婚約届じゃなくて婚姻届だと思います◎ お父さんには言ってあるのね、うん……そして新居買ったのか。借りるんじゃなくて買ったのか。くぅ〜っ、金持ちめ!← (2017年2月17日 22時) (レス) id: c06852ffd8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:花畑 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2017年1月15日 19時

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