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毎日が地獄だった。





 久しぶりに高熱を出した和典。
 塾の重要な考査が返ってきた直後の事。







「貴方はどうして、そんなに体が弱いのっ…。
 貴方みたいな子を持った、私が可哀想。
 どうして、もっと強くなれないのっ?」


ごめんなさい

 蚊の鳴くような声でしか、謝ることができない。






 いつもと同じセリフを吐く母。
 全ての言葉が、小さな槍となって和典の心に突き刺さる。
 槍は、和典のガラスのような心に容赦なくその刃を突き立てた。


ビシッ
ビシッ


 罅の入る音。
 ぼろぼろと、心が音を立てて崩れ落ちていく。





「お医者様呼んだから明日までには治しなさいよ」


 母はそれだけ言い捨て、部屋から出て行った。
 その後ろ姿を見つめながら、和典は唇を噛み締める。

 真っ赤な唇が、赤みを増す。





 小さな血の玉が噴き出た。
 和典の白い顎を伝い、布団に赤黒い染みを作る。
 慌ててティッシュでふき取る。
 和典はくらくらする頭を押さえ、柔らかな布団に身を沈めた。
 このまま、地の底まで沈んでいけばいいのに、そう思った。







「ストレスが原因じゃないか?」


 やってきた医師にそう告げられる。

「……え?」
 か細い声を出した和典。
 乾いた瞳で医師を見つめる。かかりつけの医師の見慣れた白衣が、目に痛いほどに眩しい。

 医師は、顎を撫でながら告げた。


「和典君のお母さんは、どうも……独裁的らしいね」


 容赦のない言葉に、俯く。



「よくあるケースなんだ、母親に過度の期待を背負わされ、熱を出す子供は。
 だが、和典君ほどよく熱を出す子は稀だね。お母さんは、君にいつもどんな風に接しているんだい?」


 医師の黒い瞳が、和典の目を覗き込んだ。
 思わず逸らす。

 言いたくない。
 赤の他人に、自分と母の関係がどんなものなのかなど、言いたい訳がなかった。



 まあ、良好とはいえないだろう、自分たちの関係は。
 だが、不和でもないはずだ…もちろん。













 幼稚園の頃は、勘弁してくれた。
 だが、小学校に入学してすぐ、塾に通わされた。
 秀明よりもレベルの低い塾ではあったが、その分結果を残そうと必死になっていた講師たちは、1年生の和典に3年生レベルの授業を詰め込んだ。宿題は、もちろん毎日膨大な量を出す。母は、自分が仕事から帰宅すると、真っ先に和典に宿題が終わったかどうか聞いた。終わっていないと、すぐにやらせた。

*→



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とらい - 親子の関係やそれについての悩みがすごく共感できました。どうしてこんな素敵なお話を書けるのだろうと尊敬します。KZのみんなでも相談できそうですが彩の兄の祐樹さんも親子関係に苦しんでそうなので、上杉くんの良い相談相手になるのではと思いながら読んでいます。 (2019年11月11日 16時) (レス) id: 6a44c88143 (このIDを非表示/違反報告)
ハナ - La merさん» うん…今更新したとこでも、ボロクソ言ってますよ。まあ上杉君がびしっと言ってしまいますのでね←少々上杉母が不憫になるほどね。まあ、更新を見ればわかる!そして、とうとう完結だぜい(*´ω`) (2017年4月5日 21時) (レス) id: d317c487ea (このIDを非表示/違反報告)
ハナ - La merさん» 結婚だぜい☆あら、申し訳ない。そう、影の薄いお父さんは、きっとかかあ天下の元でひっそりと生きてきたのよ←息子の理解者だけど、そこまで協力してくれてない…的な。まあ空気の存在だと思って下されば←買ったのよ。ささやかだけど、可愛すぎる家を!(笑) (2017年4月5日 21時) (レス) id: d317c487ea (このIDを非表示/違反報告)
La mer - 式を挙げるって……!! 挙げるって……やだアーヤ可愛い(おい)そして、アーヤを「あんな子」だってっ!? いくら上杉の親だろうと、そんな言い草は私が許さないよ。アーヤは美人で成績良くて天使で純粋で謙虚で……言うとこなしじゃないかっ!! どこが不満なんだ? (2017年2月17日 22時) (レス) id: c06852ffd8 (このIDを非表示/違反報告)
La mer - け、けけけ(動揺パニック唖然呆然)いやぁ、すっかり同棲だと思ってた私よ← そして恐らく、婚約届じゃなくて婚姻届だと思います◎ お父さんには言ってあるのね、うん……そして新居買ったのか。借りるんじゃなくて買ったのか。くぅ〜っ、金持ちめ!← (2017年2月17日 22時) (レス) id: c06852ffd8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:花畑 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2017年1月15日 19時

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