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階段を降りると木製の扉が現れる。
細かな彫りがなされたその扉を引くと、溢れんばかりの音の洪水が目の前に広がっていた。
最初、家から飛び出して何となくここに辿り着いたのが懐かしい。
人々の欲望が辺りで蠢き、眩い光と耳を劈く部屋の中で立ち止まりあまりの情報量に呆然としていると、部屋の中央にあるバーの店員が声をかけてくれたのだ。
クラブで持ち帰られたい訳でも、腐乱した求愛行動がしたい訳でもない。
その店員と話がしたい。
私のことを否定も肯定もせず、ただ耳を傾けてくれる優しさに浸りたいのだ。
どんな音楽が流れようとも、単調な動きやワイニーダンスばかりの踊り狂う人たちの間を掻い潜り、少し喧騒から遠ざかれるバーを見つけてカウンター席に座る。
「ケントさん、いつもの」
「はいはい、待っててね」
ここのクラブの中にあるバーで働いている例の店員──彼は、名をケントという。
源氏名なのか本名かは定かではないが、いつも着ているベストについている名札には筆記体でそう書かれてある。
ほとんど髪を染めたことが無いという、艶やかな黒髪にスッキリした印象がありつつ、時々甘さと色気を醸し出す瞳。
何処を切り取っても美しい様は、まるで宝石のようだ。
ごくりと宝石を丸ごと飲み込んだかのような彼は、柔らかな笑みと一緒に度数の低い柑橘系のカクテルを私の前に差し出した。
名前はよく分からない。
ただ、酒に慣れていないのだというとこれを出してくれたので、こればかり頼んでいる。
喉元を甘酸っぱいそれが駆けていき、ほんの少しのアルコールが私の憂鬱を吹き飛ばした。
「どうしたのAちゃん、今日は特に暗い」
「……そうですか?」
「何かあった?また、家のこととか」
「直接は関係ないけど……学校、来いって言われて。今更無理だよ、戻れない」
なるほどねぇ、とケントさんが息を吐くのと同時に呟いた。
やはりここに来ても、あまり気分は乗らなかった。
これ以上、逃げるのは無駄かもしれない。
家出してこんな薄暗い場所に身を潜めて、やっと安心感に包まれていたとしても──1度結んでしまった繋がりを切るのは安易ではない。
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miU(プロフ) - おかえりなさい!これからの更新楽しみにしています! (2018年4月25日 7時) (レス) id: b909dcbe9a (このIDを非表示/違反報告)
Ryrie**(プロフ) - みうさん» みうさん、ありがとうございます。これからさらに落ち着かなくなるような展開を考えていますので、是非最後までお付き合いくださいませ。 (2018年1月13日 22時) (レス) id: 3c581ac854 (このIDを非表示/違反報告)
みう - どきどきして心が落ち着きません!続きを楽しみにしています! (2018年1月7日 23時) (レス) id: b909dcbe9a (このIDを非表示/違反報告)
Ryrie**(プロフ) - カグラさん» カグラさん、ありがとうございます。まだまだ序盤ですがこれからも見てくだされば幸いです。 (2018年1月5日 22時) (レス) id: 3c581ac854 (このIDを非表示/違反報告)
カグラ(プロフ) - ずっと待ってました!この世界観が好きで更新するたび楽しく読ませてもらってます(о´∀`о)これからも待ってます! (2018年1月4日 14時) (レス) id: 55da401ce9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅島 | 作成日時:2017年9月20日 16時