70話 ページ21
.
真っ直ぐに、一直線に飛んでいくボール。
それを投げたのはうちの学校の野球部のエース。
藍里「あ、成宮投げるみたい」
「きゃー!鳴くーん!」
「やばくない!?成宮くんの投げるとここんな近くで見られるって…同じクラスの特権ってやつだよね!」
藍里と近くにいてもそれを遮る勢いで届くほかの女子のわざとらしいくらい高い声。
別に気にするほどの事じゃないのに…
A(変なの、なんでちょっとだけ)
A(モヤモヤしてるんだろう)
Aは息苦しさを覚えた。
今まで感じたことの無いモヤモヤ感。
A(成宮さん、人気者なんだなぁ)
A(私よりおしゃべりしたいと思ってる人いると思うし、おしゃべり上手な人たくさんいるよ)
A(私より笑うのが上手な人もいる)
それなのに自分に話しかけてくる鳴が
Aにとっては不思議なのだ。
そんなつもりはないとおもっていても、ついついそういう思考に陥って。
A(言われなくても…)
A(言われなくても気がつけば見てるんだよ)
自然と目がそちらへ向いてしまう。
あ、こっちを向いてないなって安心する自分がいて
視線が合えば逸らすの繰り返し。
藍里「あいつ普段憎たらしいけど…やっぱ投げるとなると雰囲気変わるよね」
A「憎たらしいって…」
藍里「だって見てみなよ、全然顔違うじゃん」
Aは鳴の投げる時の顔を
いや、投げているところを見たことがない。
それってどうなの?と思われてもなんも言えない立場。
A「そんなに?」
さっきのことが恥ずかしくて恥ずかしくて
俯き気味だった顔をあげる
すると視線の先にいたのは─
A「ほんとだ、全然違う…」
藍里「ね、言ったじゃん?なんだろう、目が違う?帽子かぶってないからよく分かるよね」
目の色が全く違う
真剣って言葉が良く似合う顔。
さっきまでの、Aが知っている鳴の顔ではない。
たかがスポーツテストでこれなのだから野球の試合となったらこれよりもっとすごい顔になるのかとAは思ってしまった。
A(王子様というより、王様みたい)
真剣なその顔が、横顔が見たことないくらい
かっこいいと心の底から思える顔だった。
生まれて初めて誰かにそういう感想を持った瞬間
99人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ちあき | 作成日時:2020年4月21日 19時