147話 ページ49
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「お、噂をすればあそこにいる」
自分以外の他の男子に言われるといつもモヤモヤするけれど
野球部のやつとなればもっとモヤモヤする
もうモヤモヤを通り越してイライラに近い感情
たしかに見た目もいいが中身がとってもいいことを知らない彼らに苛立ちながらも
心のどこかで安心している部分もあった。
「あ、成宮じゃん」
「ほんとだ」
Aの隣にいた藍里が先に鳴がこっちを見ていることに気がつきAに声をかける。
ちょっと気になって2人の方を見るとバチッと確かにAの目が合ったのだが
すぐに慌てて逸らされてしまった。
「(なんでAちゃんから言ったくせに)」
「(すぐそうやって恥ずかしがって逸らすの?)」
若干不貞腐れながらもそれ以上にAが好きでいつも見つけるとすぐ話しかけたくなる鳴は
今回もまたAを見つけるなり床につけていたエナメルバッグを担ぎ、近寄っていく。
「Aちゃん」
「何でしょう」
「冨田の後ろに隠れてないで出てきなよ」
「嫌だ…」
「何?俺の事怖いの?」
「違うけど、言わなくちゃ分からないの?」
最初の頃より言いたいことを素直にぶつけるようになっているA
もちろん言わなくたって鳴にはわかっている
どうしてAが隠れているのか彼女の顔を見ていれば。
さっきから何故か頬が熱い。
「……帰るの?」
「ううん、藍里の部活が終わるまで自習室に行ったり学校の中をブラブラしてる」
「冨田と帰るの?彼氏は?」
「今日は機嫌がいいから許してくれた」
「そっか」
藍里も彼氏(仮)もAと帰れるなんて羨ましいといつも思ってしまう
"一緒に帰ろう"なんて寮生活をしている鳴はきっとずっと言えないかもしれない言葉だ
「よかった」
「まだ明るい頃だからさ、大丈夫だとは思うけど気をつけてね」
心の底から出た本音は
よかったというこの一言に尽きた。
正直Aとその人がどんな感じにギクシャクしてるかはわからないが
藍里の話を聞く限りあんまりいい関係じゃないことくらいはわかっている。
「うん、ありがとう」
でもそんな心配する気持ちを吹き飛ばすように
Aは少し照れたように笑った
「またね、成宮くん」
「ん、またね」
今日も待ってが言えないのがもどかしかった
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作者名:ちあき | 作成日時:2020年6月16日 1時