No.7 ページ8
＿＿＿＿
それがネモが持って生まれた力。生来の才の名称
記憶を失っても頭にこびり付いていた魔法の名だった
姿や声を真似るだけなら一目見るだけでやってのける
加えて、体の何処かを触れれば、触れた相手の記憶を読み取り、口調から性格、果ては思考回路まで擬態可能だ
少し触るだけで、その人に成れる
その人の築いてきたものを一瞬にして模倣できる
容姿や声帯などの表面だけじゃなくて、内側全部をわたしの手は暴き出す
次から次へと流転するわたしの
『そうだ…だから…』
……だからわたしは徐々に自分を忘れて行った
自分ではない誰かへと成り代わる日々に、己が削られていった
顔だけ、もしくは声だけならば良かった
けれどわたしは根底から自分を打ち壊し、隅々まで自分を作り替えていた
他人の人生をあたかも元から自分の人生だったかのように振る舞う毎日に、わたしは段々己を失っていったのだ
名前も…自分の顔すら忘れるくらい他人に成りすましてきた
『(なんで…そんな事をしていたんだっけ)』
そうしなければならない理由があった筈だ
けれど記憶に靄がかかって思い出せない
＿＿＿＿兄ちゃんと手繋ごう
『う、ぅ…』
不意に、何処か遠い記憶がわたしにそう呼びかけた気がした
全てを暴くわたしの手を、握ってくれた誰か
気味悪がられていた呪われた手を、温かく包んでくれた誰か
『誰だっけ…』
廊下の窓から射し込む陽の光
それが眩しくて、わたしはキュッと目を細めた
.
.
.
.
.
.
.
「あっれ〜ジェイドじゃん。ここで何してんの？」
『フロイド』
"ジェイド･リーチ"の記憶を垣間見たわたしは落ち着いた態度で己の片割れを振り返った
フロイド･リーチ。わたしの……僕の大事な兄弟
一瞬にして"わたし"から"ジェイド"へと切り替わる思考に内心ため息をついた
こんなことを繰り返すから自分を見失うんだ…
『いえ…少し感傷に浸ってしまいまして』
そう返して僕はある部屋に視線を投げかけた
そこは先程人一人居なかった廊下に位置する、学園の片隅
とある生徒が最期の時を過ごした、陽の当たる場所
"ジェイド"の記憶を垣間見て気になったので引き返して来た所、フロイドに出くわしたのだ
「イモガイちゃん…」
小さな呟きが二人きりの空間に溶けていく
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くらげ - コメント失礼します！2シリーズ続いて読みました。なんか伏線とか伏線回収とか綺麗すぎて五芳星とか厄災とかもうほんとにすごかったです！次回作が作られたら速攻で見ます！これからも頑張ってください！！ (12月3日 10時) (
レス) @page50 id: 09404ca91f (このIDを非表示/違反報告)
サカ - 初コメ失礼します！全部一気読みしてしまいました。すごく素敵な物語だと思います!!!!今まで読んだ中で1番好きです (2023年1月22日 22時) (レス) @page50 id: 0270587d36 (このIDを非表示/違反報告)
やぎ - 初コメ失礼します！！この前の小説も今回もとても素敵なお話でした！初めて夢小説で泣きました(T ^ T)これからも更新頑張ってください！ (2022年9月25日 12時) (レス) @page50 id: c3ead30411 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫(プロフ) - 初コメ失礼します！！！！！とりあえず神作をありがとうございます:( ;´ཫ`;):シリーズ一気読みして何度泣いたことか…感動やばいですコレ…こんなに泣いたのは久しぶりですwこれからも投稿頑張ってください！応援してます！ (2021年11月12日 13時) (レス) @page50 id: d86b6fe909 (このIDを非表示/違反報告)
次亜鉛素酸 - 一気読みを今更させていただきました。伏線やら何やらもう神ですね(語彙力)もうコメントをご覧になっていないと思いますが、素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年10月26日 1時) (レス) @page50 id: 1c5b1c4456 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ﾆﾉｺｺ
| 作成日時：2020年12月25日 18時
