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Episode4 ページ5

王子様を抱えながら何とか浜へ泳ぎ着きました。人魚の唄が止んだ海は穏やかさを取り戻し、ベルベットの宵空には、ばら撒かれた宝石の星、盆の三日月が煌めいております。

手近な岩に王子様を寝そべらせると、ルサールカは小さく息を呑みました。王子様の胸が動いていないのです。

「ああ、何故なのですか……」

しかしルサールカはいつかに言われた、モルーアお姉様の言葉を思い出しました。一縷の希望とも言える、あの言葉を。

―― 『傷ついたものを癒すことも、貴女の思いのままになる

「私の歌声で、王子様を甦らせることができる……?」

考える間などありませんでした。ルサールカは、王子様のために歌いはじめたのです。


海の藻屑と消えた船
惑わされたニンゲンたち 免れたのは貴方だけ

少しずつ 少しずつ
命よ力よ 甦れ
そして生ける歓びが甦らんことを

美しいものは死なない
果敢なものは死なない
決して 決して 死んではいけない……!


ルサールカの紡ぐ歌声に偉大なる魔力が宿り、それは王子様へと注がれました。やがて王子様の胸が再び動き始めます。

「やったわ!」

思わず小さな感嘆の叫び声があがります。ルサールカの美しい歌声で、王子様を甦らせることができたのです。

――リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン

鐘の音に振り向くと、それは海辺の修道院からのものでした。鐘が鳴り止むと正面の門が開き、修道服を纏ったニンゲンたちが出て来ました。ルサールカは人間に見つかってはならないと、静かに海へと潜り込みます。

岩場から様子を窺うと、門から出てきた人間たちの先頭を歩く女性が倒れる王子様を見て慌てて駆け寄りました。そしてその姿を見て、驚きの声をあげます。

「ああ神様……!」

「まあ! 王女様、この殿方は一体?」

「存じております。この方は、隣国の王子様なのです……!」

“王子様”。その言葉に、ルサールカはハッと息を吸い込みました。

――あの方は王子様だったのですね。なんて素敵な王子様でしょう……

「まだ息があるみたいですわ。院で介抱を致しましょう!」

女性――王女様の言葉に人間たちは数人がかりで王子様を抱えて修道院へと連れて行きます。ルサールカは、連れて行かれる王子様を静かに見送ることしかできませんでした。

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芙蓉(プロフ) - 影狼さん» そう仰って頂くことが、何よりも物を書く励みになります。“人魚姫”は私にとっても思い入れのあるもので、何としても良い作品を書きたいと思っておりました。影狼さんの心を少しでも揺さぶることができたこと、本当に嬉しく思います (2018年2月20日 21時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)
影狼 - 何回も読んでいるのに、なぜか毎回号泣して、画面が凄い濡れます。名前をつけたり、言葉遣いを変えるだけなのに、この作品は素晴らしすぎる! (2018年2月18日 15時) (レス) id: eaea3a9226 (このIDを非表示/違反報告)
芙蓉(プロフ) - 神鳥さん» ちょっと端折られていますね。人魚は確かに王子を愛しました。そして彼の持つ永遠の魂に憧れ、人間になりたいと願ったのですよ (2017年8月14日 21時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)
神鳥(プロフ) - 私が聞いた話によると、人魚姫が泡にあったあと妖精になり、三年間善い行いをすれば、不滅の魂になると聞きました。つまり人間になれるということです。人魚姫の目的は人間になることだったので。しかし、あまりこのことは聞かないので、私の勘違いかもしれません (2017年8月14日 21時) (レス) id: c9a08bd565 (このIDを非表示/違反報告)
芙蓉(プロフ) - るいさん» ありがとうございます。そう言っていただけるだけで嬉しい限りです。期待にお応えできるよう頑張りたいと思います (2017年8月14日 19時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:芙蓉 | 作成日時:2017年8月14日 17時

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