Episode12 ページ13
皆が寝静まった真夜中、ルサールカは甲板に出て海を見つめていました。するとそこからゆらりと、3つの影が月明かりに浮かびます。それは優雅に海面を回遊しながら、歌うようにルサールカへ呼びかけました。
「ルサールカ、ルサールカ。可愛い末の妹」
「魔女から話は聞きました。王子は貴女を愛さなかったと」
「私たちが貴女を助けるわ。これを受け取りなさい」
――ローレライお姉様、セイレーンお姉様、モルーアお姉様!
投げら入れられたそれを拾うと、それは美しい細工が柄に施された不思議な短剣でした。驚きのあまり息を呑むルサールカですが、投げて寄越したお姉様たちは落ち着いています。
「それは魔女に協力してもらって作った、私たちの唄を込めた短剣よ」
――そんな……お姉様たちもまた何かを代償を支払ったの?
ルサールカがじっと3人のお姉様たちに目を凝らすと、大きく変わったそれに目を見開きました。
お姉様たちが物心ついた頃から大切に伸ばしてきた豊かで美しい髪は、その影もないほどに切り落とされていたのです。どんな宝よりも美しいその髪を、お姉様たちはルサールカひとりを助けるために、喜んで魔女へと捧げました。
――何てことを……!
「私たちは決して愚かではないわ。愛しい妹を救うために、髪ごときを惜しむ姉がどこにいるの」
「いいこと? 夜が明ける前にその短剣で王子の心臓を貫きなさい。すると私たちの唄に喚ばれて海は荒れ、この船を飲み込むわ。そうして王子と王女が海へと沈めばルサールカ、貴女は人魚へと戻れる」
――心臓を、つらぬく……? お姉様たちは、一体なにを……
ルサールカの心など読めぬお姉様たちは、ただひたすらに、助けたいという想いをルサールカに届けるのです。
「本当ならば、私たちが代わりたい。けれどそれは許されないの」
「可哀想な、可愛い私たちのルサールカ、私たちが助けられるのはここまでです。どうか早く、早く帰って来て下さい」
「ルサールカ、お姉様たちは心から貴女を愛しているの。呪われれば良い、貴女を愛さぬ男など」
ローレライお姉様たちが帰るとまた再び静寂が戻り、ルサールカは手に短剣を握り締めたまま、取り残されたそこに立ち尽くすことしかできませんでした。
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芙蓉(プロフ) - 影狼さん» そう仰って頂くことが、何よりも物を書く励みになります。“人魚姫”は私にとっても思い入れのあるもので、何としても良い作品を書きたいと思っておりました。影狼さんの心を少しでも揺さぶることができたこと、本当に嬉しく思います (2018年2月20日 21時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)
影狼 - 何回も読んでいるのに、なぜか毎回号泣して、画面が凄い濡れます。名前をつけたり、言葉遣いを変えるだけなのに、この作品は素晴らしすぎる! (2018年2月18日 15時) (レス) id: eaea3a9226 (このIDを非表示/違反報告)
芙蓉(プロフ) - 神鳥さん» ちょっと端折られていますね。人魚は確かに王子を愛しました。そして彼の持つ永遠の魂に憧れ、人間になりたいと願ったのですよ (2017年8月14日 21時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)
神鳥(プロフ) - 私が聞いた話によると、人魚姫が泡にあったあと妖精になり、三年間善い行いをすれば、不滅の魂になると聞きました。つまり人間になれるということです。人魚姫の目的は人間になることだったので。しかし、あまりこのことは聞かないので、私の勘違いかもしれません (2017年8月14日 21時) (レス) id: c9a08bd565 (このIDを非表示/違反報告)
芙蓉(プロフ) - るいさん» ありがとうございます。そう言っていただけるだけで嬉しい限りです。期待にお応えできるよう頑張りたいと思います (2017年8月14日 19時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:芙蓉 | 作成日時:2017年8月14日 17時