Episode11 ページ12
王女様を乗せた王子様の船が、帰国すべく出航します。船の中でも一等に立派な船室の中で、幸せそうに再会の喜びを語り合う王子様と王女様を遠巻きに眺めるルサールカは、足の痛みも厭わず甲板へと飛び出しました。
『お主の愛する王子が他の女と結ばれてしまえば、お主の心臓は砕け散り、肉体は海の泡沫となって消える』
――私はもう、王子様と結ばれることは叶わない。
帰国すれば数日と経たぬうちに、王子様と王女様の婚礼の儀が執り行われる手筈になっています。ルサールカの心臓が砕けるその日は遠くない。きっと王子様への愛の言葉を声に紡ぐことなく、泡沫となり消えてしまうのでしょう。
あれ程までに焦がれ、全てを棄て、失い、捧げ、そしてやっと手に入れた幸福。それは海で生まれた泡沫が弾けるよりも儚く消え、ルサールカは胸が張り裂けそうな絶望と喪失感に苛まれました。
「姫様?」
先程まで王子様とソファに腰掛けていた王女様が、ルサールカの様子を見にやって来たようです。さめざめと泣き咽ぶルサールカを見て、王女様は目を見開きました。
「まあ! そんなに泣いて……一体どうしたのいうのです?!」
王女様はルサールカを抱き締め、あやすように背を撫でてやります。それは母のように慈しみ深く、ルサールカの悲しみで荒れた心を癒すようでした。
「大丈夫ですよ、姫様――わたくしの可愛い
驚いたルサールカに、はにかむように王女様は言いました。『ずっとずっと、“妹”に憧れていた』のだと。そして、ルサールカという美しい義妹が出来たことが心から嬉しいと。その微笑みが、お姉様達のそれと重なります。
いつの間にやら追いかけて来た王子様が、抱き合う王女様とルサールカを微笑みながら見ていました。その姿に、ずきりと鈍く痛む胸。彼はもう、ルサールカを見ていないのです。ルサールカを優しく慰める王女様を見ているのです。
――王子様、私は、ルサールカはお慕い申し上げています。ずっと、ずっと。
あの日から、ひと目見たあの瞬間から。ルサールカの心は王子様のものだったのです。けれど王子様の心は、今ルサールカを抱き締める美しい人間の娘のもの。それがルサールカへ、確かな虚無感をもたらしました。
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芙蓉(プロフ) - 影狼さん» そう仰って頂くことが、何よりも物を書く励みになります。“人魚姫”は私にとっても思い入れのあるもので、何としても良い作品を書きたいと思っておりました。影狼さんの心を少しでも揺さぶることができたこと、本当に嬉しく思います (2018年2月20日 21時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)
影狼 - 何回も読んでいるのに、なぜか毎回号泣して、画面が凄い濡れます。名前をつけたり、言葉遣いを変えるだけなのに、この作品は素晴らしすぎる! (2018年2月18日 15時) (レス) id: eaea3a9226 (このIDを非表示/違反報告)
芙蓉(プロフ) - 神鳥さん» ちょっと端折られていますね。人魚は確かに王子を愛しました。そして彼の持つ永遠の魂に憧れ、人間になりたいと願ったのですよ (2017年8月14日 21時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)
神鳥(プロフ) - 私が聞いた話によると、人魚姫が泡にあったあと妖精になり、三年間善い行いをすれば、不滅の魂になると聞きました。つまり人間になれるということです。人魚姫の目的は人間になることだったので。しかし、あまりこのことは聞かないので、私の勘違いかもしれません (2017年8月14日 21時) (レス) id: c9a08bd565 (このIDを非表示/違反報告)
芙蓉(プロフ) - るいさん» ありがとうございます。そう言っていただけるだけで嬉しい限りです。期待にお応えできるよう頑張りたいと思います (2017年8月14日 19時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:芙蓉 | 作成日時:2017年8月14日 17時