[◇]純愛クレッシェンド[小湊亮介]

１小節目 ページ3

♡１小節目


.




｢A、まだやるの？｣


｢うん、もう少しだけ｣





そっか、じゃあ私達先にあがるね。お疲れ様。



そう言って同じパートの子達が帰っていった
その姿を見送り、私は再びトランペットを構える




鋭く息を入れれば勢いよく音が鳴るし
少し優しく息を吹き込めば柔らかい音が出る



同じ楽器でも、違う音を出す
そんな金色のトランペットに私は恋をしている






……楽器に恋、だなんて変な話かもしれないけど

本当にそれだけ楽器が大好きで
楽器を吹くのが楽しくて、やめられなくて、


男の子と恋して、なんてことは疎遠なことだった





私にはトランペットがあるから。
トランペットさえあればなんでもやっていける。


ずっと、そう思ってて
今も、そう考えていて





夕暮れのオレンジと
桜の桃色に染まるグラウンドを見つめながら
校舎の教室で1人、一番好きな曲を吹いていた







｢あれ、……相楽？｣


ふいに、後ろから声をかけられた
その声はよく知るもので勢いよく振り返る



｢小湊、くん……？｣

｢やっぱり、相楽だ。また部活終わってないの？｣

｢ううん……自主練。｣



答える声はだんだんとか細くなって
そんな自分を少し恨んだ


そっか、そう言って笑う小湊くんが
教室に入ってきて、窓際、私の隣に並んで立った



｢相楽はさ、吹奏楽やってて楽しい？｣

｢…うん、好きなこと、たくさん出来るから楽しいよ｣



そう言って彼を見たらどこかさみしげな表情

いつも笑顔でいる小湊くんが、珍しく表情を曇らせて
何か考えているように空を見ていた



夕焼け色に照らされて
皆が楽しそうに帰っていく姿が見える

自然と、私も言葉が無くなり
その場に立ち尽くすことしか出来なかった





｢ねぇ｣

｢……な、なに？｣

｢トランペット。吹いてよ｣



さっきのがウソのように
いつもの笑顔でこちらを見る彼に促され
私は、相棒を空に向かって構えた



───少しでも、小湊くんが元気になるなら。って

２小節目→←Prologue

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す