愛 5 ページ5
彼女の顔を見たかったのは全員だから、謝れない。
顔を見た事に後悔はない。
「主は賢いからなぁ、大丈夫だ」
三日月が茶を飲みながらのんびりと言った。
確かに彼女は賢く、聡明だ。
けれど彼女はおそらく…
「優しすぎるんだ」
人とは大変なものだ。
俺達は人にしか見えなくなってきたのだろう。
前から彼女は賢いから俺達を有効に使っていたが、傷一つつけたことがない。
恐らく最初の数回だけで最近来た刀達は軽傷にもなった事がないだろう。
それ程に優しくて慎重なのだ。
「主は俺達の事嫌いになったかな？」
加州清光がどんよりとした表情でつぶやいた。
「主は俺達の事を嫌う事なんてないぞ。優しくて残酷だからな」
彼女は俺達をちゃんと使ってくれる。
けれど、刀だからと一線を引いている。
その上で彼女は俺達を人間らしく扱っている。
「だが、太郎太刀にだけ主は反応するんだよなぁ」
何故かは分からないがいつも心を掻き乱される。
「現世の恋人と似てるからだとか？」
「きみ、変な冗談はやめてくれ」
主はまだ年端もいかない子供だ。
だからそんな経験はないだろう。
無い筈だ…あったらどうしようか？
「鶴、主の事が好きなのか？」
「そりゃあ皆好きだろう」
問うた三日月自身も好きだろう。
皆好きなのに彼女は気づいていない。
立場などと考えて近寄ろうとしない。
「鶴さん、多分そっちの意味じゃないよ」
加州清光が苦笑いで言う。
「そっちの意味…？」
主を愛しいと思うという事か？
じゃあ、この感情は恋か？
主を独り占めしたくなるのも？
「どうしたの鶴丸、顔真っ赤だよ？」
ひょこっと誰かが台所から顔を出した。
愛しい声と共に来たのは主だ。
「主！」
「いや、何でもない。きみは何をしてるんだ？」
エプロン姿でする事はそうそうないが聞いてみる。
「明日誉とった子達へのおやつを作ってるの」
俺の分はないのだろうか？
それよりも先程は少なからず怒ってたと思ったが今は俺を心配してくれるのか。
「何を作るんだ？」
「んー、シュークリーム」
ニコニコと彼女は頬を緩ませて微笑む。
彼女の笑った顔は初めて見た。
俺が来たばっかりの頃はこんなに親しくは話せなかったな。
そしてその表情も観れなかった。
「しゅうくぃむとは美味しいのか？」
「三日月は食べた事なかったっけ？」
初期に来てた奴らは皆好きだったから連日おやつで食卓に並んでたんだがな。
確か三日月は中盤で来たな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 6人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：彼岸花 | 作成日時：2019年4月21日 15時
