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「A」


大きな大きな体育館の隅で、喝采や声援の喧騒の中、私の名前を呼ぶ声だけがはっきりと聞こえた。

「信介……」

振り返ると立っていたのはインタビューを終えたらしい信介だった。



「優勝、できんくて、」

ごめん、そう続けられると思って、思わず信介に飛びついた。


「結果は副産物なんやろ。そんなんどうでもええ。
……春高に、連れてきてくれて、ありが、と、う」

口にしながら目頭が熱くなった。

ゆっくりと優しく信介の手が私の背中に回る。

たくさんの人で溢れかえる体育館の隅、誰かが見ているかもしれないことなんて頭からすっぽ抜けていた。

今は、私と信介だけの世界。
そんな感じがした。



「最後まで、おってくれてありがとうな」

どこまでも優しくて暖かい信介の言葉に涙が止まらなくなった。
結果は副産物。
そう頭ではわかっていても、死ぬほど悔しかった。
やっぱり、勝ちたかった。
頑張って頑張って、これ以上無いくらい力を尽くしても及ばなくて、それでも負けたことは悔しい。
もう少しだけでもこの体育館にいたかった。


そしてもうこれで、信介のそばにおれることはない。
学校に戻ればただの3年生。
クラスも違えば部活も無くて、もう何も無い。
接点もなくなって、次会う時は卒業式の日の部活の集まり。


「そんなん、嫌や」

「え?なんか言うたか?」

でもそんなこと信介に伝えるほどの勇気ももちあわせていなくて。

「……いや、今まで近くで見てこれてよかったわ。
ほんまに、ありがとうな。っ、これからは、関わることもないやろうし、お互い頑張ろな、」


「……は?何言うて、」


私は信介の声も無視して体育館を出た。
通路に出てすぐ後ろにひかれる。

倒れそうになったからだを後ろから抱きとめられた。

「ちゃんと聞きいや、人の話」
「嫌や聞かへん」

誰とも付き合う気のない信介の言葉なんて、聞きたくない。
だって私はこれからもずっとそばにおりたいのに。

わざわざそれが叶わない現実を押し付けることなんてないじゃないか。


「私は、部活がなくなっても、信介のそばにおりたい。

でも、そんなん、もう……理由ないんやもん。

だって信介は、……誰とも付き合わへんのやろ?」


私はそう言うと信介の腕を振りほどいて走り去った。

階段を駆け上がって、自分たちの場所へ向かう。

歓声も何もかもがもう関係の無いことだと思ったら、一気に寂しくなった。





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なず@ヴィル様の旦那です(プロフ) - うびゃぁ…………今まで読んできた中で一番好きです… (2021年4月10日 16時) (レス) id: c2e37a127a (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ちびさん» そう言ってもらえると嬉しいです^^お読みいただきコメントまで、本当にありがとうございます! (2020年6月5日 22時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
ちび(プロフ) - めっちゃ感動しました!!最高です( ; ; ) (2020年6月2日 20時) (レス) id: c0c643d2d0 (このIDを非表示/違反報告)
Rikka(プロフ) - りるとさん» そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます^^ (2020年4月17日 8時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
りると - めちゃくちゃいい話でした!! (2020年4月15日 0時) (レス) id: 615da3bcde (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Rikka | 作成日時:2020年3月18日 10時

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