▽36 ページ37
side A
.
今までで1番嬉しい春高出場が決まって、これからやって時に、私はショックなことを知ってしまった。
「今から言うんやろ?頑張りな!」
「北くんすごいもんなぁ」
「来てくれやるかなぁ」
「もう言うたんやろ?どもないて!」
「ほら頑張れ!」
信介が行かへんわけないやろ。
そんなことする男ちゃうし。
心のうちでまたか、と思いつつマウントをとるように悪態をついた。
「あ、あの子言わんのやな」
「誰なん?」
横にいた友達も会話を聞いていたらしく、自然とその話になる。
可愛くて、小さくて、ふわふわした子。
いかにも男子が好きそうな、そんな子だった。
「北と同じクラスの子やで。なんやようベタベタしてやるらしいわ。みんな付き合うやろ言うてる」
その言葉を聞いた瞬間、心臓がドクンと嫌な音を立てた。
瞬きをすることも、息をすることさえも忘れてしまいそうだった。
世界が色をなくすような、そんな感じがした。
嫌。
その1文字が脳内を支配する。
どうしよう。どうしようどうしよう。
頭が上手く回らなくて、考えるよりも先に私は動き出していた。
「え、ちょ、どこ行くん!」
.
走って走って、ひたすら足を動かした。
「あっ侑!」
廊下でたまたま見つけた侑に声をかける。
侑が言うには、信介は中庭に行ったらしい。
泣きそうになった。
まだ何もわかってないのに、泣きそうになっていた。
外に出るところで、さっきの女子とすれ違った。
ああ、もう言ったんだ。
涙が一筋頬を伝った。
外は思っていたよりも寒かった。
でもそんなことも気にせず信介のもとへ走る。
「信介、いた……」
私の声に振り向いた信介は全く持っていつも通りだった。
「なんや急いで」
「また呼ばれてるって、聞いて、……付き合ったん?」
そう尋ねて私は下を向いた。信介の顔を見れる気がしなかった。
だって、肯定されたらどんな顔をしたらいいのかわからない。
「……付き合ってへんよ」
信介がそう言ってほっとした。
目にたまる涙も引っ込んだ。
それもつかの間。
「付き合わへんよ、誰とも」
それを聞いても、引っ込んだ涙はもう出てこなかった。
呆然として言葉も出ない。
まだ何も、私は何も伝えていないのに、振られてしまった気分だった。
否、振られたのだろう。
「もうすぐ春高やし」
「……うん」
そんな言葉にはもう意味は無いように聞こえていた。
悲しいも悔しいも不甲斐ないも何もかもわからへん。
601人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なず@ヴィル様の旦那です(プロフ) - うびゃぁ…………今まで読んできた中で一番好きです… (2021年4月10日 16時) (レス) id: c2e37a127a (このIDを非表示/違反報告)
依(プロフ) - ちびさん» そう言ってもらえると嬉しいです^^お読みいただきコメントまで、本当にありがとうございます! (2020年6月5日 22時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
ちび(プロフ) - めっちゃ感動しました!!最高です( ; ; ) (2020年6月2日 20時) (レス) id: c0c643d2d0 (このIDを非表示/違反報告)
Rikka(プロフ) - りるとさん» そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます^^ (2020年4月17日 8時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
りると - めちゃくちゃいい話でした!! (2020年4月15日 0時) (レス) id: 615da3bcde (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Rikka | 作成日時:2020年3月18日 10時