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マネージャーとはいえ、後輩ができた高校2年の春。
「おいお前らいい加減にせぇ、どつき回すぞ」
部活が終わる頃、稲荷崎高校男子バレー部の使用する体育館に、私の怒声だけが異様に響く。
わちゃわちゃと騒がしかったその場が一瞬、監督への集合のときのような静けさを取り戻した。
互いの襟元を掴んだままの宮兄弟が、おそるおそるこちらを見る。
「お前ら2人はくっつくな」
2人と目が合うなり、逸らされるより早く言った。
ぱっと手を離した2人はすぐに距離をとる。
「す、んませんっした.....」
小さく頭を下げて控えめに言った治と、その隙を見てその場から逃げようとする侑。
「ええ子や治。やのになんでお前はいつもそうなんや侑待てや!」
まだ宮兄弟が入学して1ヶ月も経っていないというのに、こいつらの性格のせいだろうか、自然と怒れてしまうのだ。
しみじみ思いながら、尾白の後ろに隠れようとしていた侑を捕まえる。
「す、すんませんって、」
侑は首根っこを捕まえられた子猫のように大人しくそう言った。
だが私はそれが演技であるということももう知っている。
今日という今日は許さない。
校庭の可愛い桜が散っていくにつれて、私は鬼マネージャーと化している自覚がある。
でもそれは他ならない、宮兄弟のせいだ。
「すんませんって、とちゃうわ」
そんな風になるつもりはなかった。
優しくて、可憐で、みんなに慕われるマネージャーになるはずだった。
そんな憧れは崩れかけて.....、いや、もはや崩れてしまった。
もう今日は、今日という今日はただでなんて許さない。
「あーーあぁー、明日の昼購買のプリン食べたなるなぁ」
侑をじっと見つめながら、大きく独り言を呟いた。
さすがに今日は少しは反省しているらしく、「明日の昼に購買のプリン……」と呟いているのが聞こえた。
「まあまあ、南ちゃん。こいつらも入ったばっかやで、大目に見たろうや」
後ろから肩にぽん、と手を置かれ、振り返ると苦笑している先輩がそう言った。
「甘いですよ、先輩」
私はこいつを甘やかす気は無い。
おい宮侑。
お前はまだ知らないだろう。
購買のプリンの恐ろしさを。
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なず@ヴィル様の旦那です(プロフ) - うびゃぁ…………今まで読んできた中で一番好きです… (2021年4月10日 16時) (レス) id: c2e37a127a (このIDを非表示/違反報告)
依(プロフ) - ちびさん» そう言ってもらえると嬉しいです^^お読みいただきコメントまで、本当にありがとうございます! (2020年6月5日 22時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
ちび(プロフ) - めっちゃ感動しました!!最高です( ; ; ) (2020年6月2日 20時) (レス) id: c0c643d2d0 (このIDを非表示/違反報告)
Rikka(プロフ) - りるとさん» そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます^^ (2020年4月17日 8時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
りると - めちゃくちゃいい話でした!! (2020年4月15日 0時) (レス) id: 615da3bcde (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rikka | 作成日時:2020年3月18日 10時