化け物になってもきみの返事を待ってる【赤葦京治】 (ページ8)

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盛夏、花開いたのはページ8

「京治……？」

なんの前触れもなく、私の左腕が自由を失った。京治が突然、私のそれを掴んで立ち止まったのだ。
彼の手は存外に大きくて、厚くて、硬くて、もうとっくに少年のものなんかではなかった。だから知らないはずなのに、ずっと求めていたみたいな優しさを感じてしまう。それでも、そうなのに、動かそうとしても京治の手はビクともしない。私なんかよりもはるかに力がつよいことを思い知った。

「……あのさ」

私の腕を掴む京治の手のひらに力が篭もる。指の1本1本、骨の形を感じ取れるほどにぎゅ、と握り締められても不思議と痛くはなかった。

「連絡先、変えてない？」
「え？あ、うん」
「いつまでいるの？」
夏休みいっぱい？ずっとではないよね。明後日の花火大会、一緒に行こうか。
息をつく間もなく京治が捲し立てる。

ぼうっと道の端に突っ立ったままの私たちのすぐ側を、車が通った。京治が手を離す気配はない。

「……来週の、月曜まで。久しぶりだね、花火大会」

鬼気迫る表情でこちらを見る京治をそっと見上げてそう言えば、彼は目を丸くしてから、ふ、と小さく微笑んだ。
そうだな、と京治は私の腕を掴む力を緩めて、それからその手はそのまま私の肌を滑って手のひらを握る。

昔、京治が京治で、私が私でしかなかった頃、毎年こうして二人手を繋いで花火を見に行った、あの頃が脳裏を駆け巡る。黒い空に開く鮮やかな花は、私たちの思い出そのものだった。