拾壱ノ壱 相対する想い ページ42
【茨の道程だとしても】
雪代Aの新任から五ヶ月。煉獄杏寿郎は大いに悩んでいた。主旨は勿論、Aのことである。職員室の窓から外を眺めた。
「むぅ……」
否。その視線は向こう側の中学校舎で、生徒達に囲まれるAに注がれているのだが。頭を抱え、杏寿郎は深く溜め息をついた。
昔と変わらず、表情の乏しい彼女。美しさも儚さも何一つ変わりない。だからなのだろうか。どう接すれば善いのか分からないのだ。
何時も(前世)のように抱き締めたいと思うのだが、それは絶対に駄目なわけであり。況してや、縁にかなり警戒される羽目となった。
「ホント、毎日飽きないよな」
「宇髄先生」
煉獄の肩を叩いたのは、かつて音柱だった美術教師の宇髄天元だ。相変わらずガムを噛んでいる。ミント系の爽やかな匂いがした。
ちなみに前世のことを覚えているのは煉獄兄弟だけだったりする。鬼までもが人間として生きているので、杏寿郎的にはかなり辛い。
「む、何がだ?」
「何って……。雪代先生のことだよ」
「それは勿論だ、飽きることなどない!!」
「俺には理解できない」
宇髄の言葉に驚いて大声で言い返せば、大量の書類と格闘しながら隣のデスクに座る冨岡が口を挟んだ。それに宇髄も同じく頷く。
「煉獄先生はA先生のこと大好きよね」
胡蝶姉妹の姉であり、教師である胡蝶カナエも冨岡の前の席からひょこりと顔を出して微笑んだ。それに先程と同じく宇髄が頷いた。
「A先生ー!!」
「善逸、そっちは中等部の校舎だぞ!!」
窓の外から見えるAは、色々な生徒に囲まれていて僅かに微笑んでいる。その笑顔に骨抜きにされてしまう己はどうなのだろう。
杏寿郎は眉間に皺を寄せて机に突っ伏した。杏寿郎らしくない姿に、当初は驚いていた同僚達も今ではやれやれと肩を竦めて笑う。
「失礼します、1年の雪代縁です。煉獄先生はいらっしゃいますか」
「勿論だ!!」
クラス全員のノートを提出に来た縁が、杏寿郎のデスクにノートを置いて窓の外の姉を見てから此方を見上げ、瞳を少しだけ細める。
「煉獄先生、いい加減諦めなよ」
「……と云うと?」
「姉ちゃんは並大抵の男がオトせる程、単純な女じゃないし。諦めた方が良いと思う」
「それは無理なお願いだ!!」
バチバチと火花が散った。教師一同は互いの顔を見合わせ、呆れたように杏寿郎に微妙な顔をした。
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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時