百五十四歩目。 ページ5
―Aside―
「Aが今何を思ってるのか、俺は全部知りたいよ。嬉しい事も楽しい事も悲しい事も全部。表情見たら分かることも多いけど、それでもAから聞くのが一番伝わってくるから」
頭上から聞こえてくるやさしい声も、あったかい体温も、頭をなでてくれるのも、すごく安心する。
大事な人に会えなくなるのはこれが初めてじゃない。でも、過去に経験してるからと云って悲しいのが軽減される訳でもない。
むしろどんどん大きくなって、どうしてって思いが強くなる。
それでも、今まで"大丈夫"になれたのはいつだって誰かが傍にいてくれたから。
お父さんの時にはお母さんが、お母さんの時には未来さんが一緒に居てくれた。
そして今も、心操くんが居てくれてる。
こんなに恵まれてるのに、幸せなのに、同じくらい悲しくて苦しい。
『...心操くんすき、だいすき。一緒にいてくれるのうれしい。会えないの寂しかった』
「うん。俺もAが好きだよ。一緒にいれて嬉しいのは俺も同じ。最近ずっと忙しかったんだろ、お疲れ様」
そうやって、心操くんがやさしくしてくれるから、あの時から冷たくなってたとこがあつくなって、
こんなに悲しいのに出てこなかった涙がボロボロ溢れてくる。
笑顔でいないといけないから笑えるようにしてたのに、頑張っても笑えなくなる。
言いたくないし、誰にも言わないようなことでも、心操くんには言っても良い気がしてくる。
『...未来さん、もう、会えなくなっちゃった』
「俺もあの人と話してみたかったよ」
『未来さんのとこに、インターン行けとったら、助けられたかもしれない』
「その場に自分が居たらって思うと悔しいよな」
『心操くん、』
「ん、なに？」
『心操くんは、居なくならないでね...もう、置いてかれるのは、いやだ...』
「...うん、居なくならないよ。約束する」
弱音も、たらればも、わがままも、心操くんは全部受け入れてくれる。
何を言っても、何をしてもきっと受け入れてくれる。
それでも、また秘密事が増えた。
タルタロスのことも、"個性"のことも、未来さんの見たものも、心操くんには言えない。
心操くんにすら、言えないことがあるのに、心操くんじゃない人には話せるなんて、いやだな。
『ありがと、だいすき』
「ん、俺も」
これ以上、大事な人を失わなくて済むなら、何でもする。
嫌いなものだって利用して、守る。
そうすれば、私は幸せでいられるはずだから。
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2023年3月30日 22時
