百五十三歩目。 ページ4
―心操side―
暗い部屋で、ベッドに座って俯いてる。
声だけは明るくて、でも震えていて、無理してることなんてバレバレだ。
名前を呼べば口を閉じて、膝の上で拳を握りしめた。
その手を解くように指を滑り込ませて握った。
振りほどかれなかったことに安堵しながらAの目の前にしゃがむ。
顔を見られたくないのは本当だと思うから手に視線をやった。
掛ける言葉なんて持ち合わせてないし、何を言って傷付けるかも分からない。
それでも、Aが一人で辛い思いをする方が嫌だから。
何も出来なくてもそばに居たい俺の自己満足だ。
お互いに何も言わずにただ手を握って過ごす。
ししゃもが寄って来て手に頭をすりつけるのが可愛くて思わず笑みがこぼれた。
同時にAの手に力が入って、顔をあげそうになってどうにか止まった。
止まれたことにほっとして小さく息を付いたらさらに強く握られて困惑する。
『......心操くん、』
「！....ん？」
『こっち、見て』
Aの震えた声に手を握り返しながら顔をあげた。
その表情は、泣いてこそいなかったけれど、酷く悲しみを纏っていた。
Aがこんなに悲しんでるのに、俺は何もしてやれない。
共感することも、その悲しみを取り除くことも出来ない。
でも、どちらもするべきではないとも思う。
目を合わせたまま、Aの言葉を待った。
『私ね、大丈夫だよ。悲しいけど、大丈夫。今までもそうだったから』
眉を下げて笑いながらそう言ったAに俺まで悲しくなってしまった。
両親をなくしてる。大事な人をなくすのは初めてじゃない。
それでも、"大丈夫"なわけないのに。
こういうのは時間をかけて大丈夫にしていくものだから。
今までもそうだったように、Aには傍に居てくれる人が居た。一人じゃない。
だからこれからは俺がAの傍に居たい。一人にはさせない。
「Aが"大丈夫"でも、俺は傍に居たいよ。どんな時でも一緒に居たい。Aは？俺とはいや？」
『...ずるい、』
「うん。ずるい聞き方してる。Aの言葉で聞きたいから」
『いやじゃないよ。いやな訳ない。心操くんがいい。心操くんじゃないとやだ。でも、邪魔したくないの。迷惑かけたくない』
そう言ってAが辛そうな表情をするから手を引いてベッドになだれ込んだ。
びっくりした顔をするAに向かい合うように横になって引き寄せて、抱きしめた。
俺の気持ちが少しでもちゃんと伝われば良いと思ったから。
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2023年3月30日 22時
