劣等少女の病名【2】 (ページ5)

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52.始業式の話ページ5

春。並中に入学してもう一年が経ったんだ。一年生だった私達は二年生に、セーラー服は相変わらずで家を出る。今日も朝から委員会の仕事があるからとメモに残して。祖母は最近、認知症の進行が更に早まっていた。止める術がないとはいえ、日に日に遠くなる祖母の目は寂しく、恐ろしい。

｢……ここまで飛んできてる｣

学校が近いからか、花びらがいくつか落ちていた。車に踏まれて変色している。春はもっとワクワクするものだと思っていたけど、未来への不安の方が大きい。祖母は、いつか私のことも忘れてしまうんだろうか。そしたら……

｢三峰？｣

｢あっ、く、草壁さん！おはようございます｣

後ろから声をかけてきた草壁さんは、私の家と私を交互に見て｢学校から近いんだな｣と笑った。怪我なんて見る影もない。

｢流石に校門までには別れるが、途中までどうだ？｣

私も笑顔を返したけど、さすがにぎこちなかったんだろう。この人はそういう所は特に敏いから、暗に話を聞くぞと言われている。でも、こればかりは話したところでどうにもならない事だ。

｢雲雀さんに見つかったら怖いですから、どうぞお先に｣

｢そうだな。恋敵と思われてはかなわん｣

｢恋敵？誰がですか？｣

｢ああ、気にするな。それより、まだ時間に余裕もあるし近くの公園に行ってみるといい。すごいぞ｣

何が凄いのかまでは教えてくれず、自分の目で見た方が良いと言われた。近くの公園というのは分かる。この辺に公園は一つしかないから、あそこだろう。学校へ向かう草壁さんは直進、私は途中で左に曲がった。

公園なんてもう何年も行っていないから道を覚えているか不安だったけど、案外簡単に見つけることができた。だって、すごく目立っている。ピンク色の花をつけた、大きい桜木。なるほど、たしかにこれは、すごい。これなんか手を伸ばせば届きそうだ。

｢と、どく！｣

｢何やってんの？｣

｢ひぇゃッ！！？｣

驚き過ぎて変な声が出たし、どうして今日はこんなに背後から声をかけられるんだ。しかも今の声は聞き覚えがありすぎる。もう学校にいると思っていたけど、なんでこんな所に。

｢雲雀さん、何故ここに……？｣

｢質問に答えなよ｣

｢さ、桜に触ろうと思って｣

｢なんのために｣

なんのために？、聞かれても困る。何となく手が届きそうだったから伸ばした。それだけ。それに意味なんてない。理由……

｢可愛かったから、でしょうか｣

笑った頬が引き攣る。怒られそうな回答だぁ……。