劣等少女の病名【2】 (ページ4)

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51.距離の話ページ4

離れ過ぎず、近づき過ぎずのこの距離がお気に召さないらしい雲雀さん。なら私はどうしたらいいのか分からなかった。その場でストップして何十秒、雲雀さんの溜め息に余計息が詰まる。

｢さっき、役に立てそうかと聞いていたよね｣

何段か降りてさっきより近くにいる雲雀さん。見上げたその顔に、怒りとか呆れの感情は見えなかった。聞いていたのかと思いつつ｢はい｣と小さく返事を返す。

｢そうやって、他人に自分の評価を任せるのは全く理解できないけど……｣

雲雀さんが一段降りてきて、お互いの距離は階段三段分まで縮まる。大体1mもないくらい。夕焼けをバックにしてる雲雀さんを見て、初めて男の人を綺麗だと思った。続きを紡ぐはずだった口が、一度綴じる。

｢……このくらいなら許してあげるよ、A｣

｢えっ｣

今、名前、初めて呼んでくれた。というか、このくらいならって、距離の話し？話題が変わりすぎてついていけない、なんで急に。テンパって何も言えない私を、雲雀さんは無視していつも通り勝手に続けてしまう。

｢僕と副委員長がいない間、君が委員をまとめたって聞いてね。ようやく見れる程度になったかと思えば、大して変わってもいない｣

｢すみません……｣

｢その台詞は聞き飽きたよ。咬み殺されたくなかったら、さっさと動け｣

｢ひっ、はいぃっ！！｣

睨みを利かされて、蜘蛛の子のように散った。さっきまで優しかったのに、なんで急に辛辣になったの！？雲雀さんのこと、やっぱり全然分からない！
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そんなことがあったのが、一ヶ月前。あの日を境に事件らしい事件も起きていないし、すこぶる平和だ。マフィアのことは現実味が薄いけど、私だけじゃないということが大きな安心材料になっている。雲雀さんのことは、相変わらずよく分からない。

｢雲雀さん、確認終わりました。多分大丈夫だと｣

｢多分？｣

｢い、いえ！絶対大丈夫です！｣

多分とか恐らくとか、曖昧な表現を使ってしまう癖を治したい。おかげで一日一回はこんなやり取りをしていて、肝が冷える。夕焼けにハッとして時間を確認したら、いつの間にか下校時刻に迫っていた。雲雀さんをチラッと見る。

｢あ、あの｣

｢なに｣

｢そ、ろそろ、校内の巡回は、致しますか｣

｢するけど、だからなに｣

｢ご、ご一緒してもいいですか｣

｢勝手にしなよ｣

椅子から立ち上がってドアへ向かって行く。その後ろを歩いた。相変わらず微妙な距離だけど、少し近い。