【実l況l者】好きを更新し続けよう【短編集】 (ページ15)

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恋を煮詰めたらきっとこんな味 _ky ページ15

今日もAを家に呼んだ。幼馴染みという関係を最大限利用して、俺はいつまでも彼女に甘え続けている。もちろん俺の気持ちは幼馴染みという枠になんて収まりきっていなくて、歳を重ねるごとに愛も深まったりなんかしている。

その気持ちを今更伝えるつもりもないし、気付いてもらえないことも、意識してもらえないことも、別に嫌じゃなかった。今の関係を続けられれば、それでよかった。

「いつになったらキヨはわたし離れするの？」
「あー、Aがつくったココア飲みたいなあ」

小言を言いながらも、俺が頼めば眉を下げて微笑みながら応えてくれる。A離れなんてできるはずがない、こうやって一度近寄ってしまったのだから。

「よくそんな甘いココア飲めるよね」

Aが出してくれたココアを飲みながら編集作業をしていると、そう声をかけられる。一口貰っていい？の声に頷く前に彼女は俺のカップを手にしていた。宣言通り一口含んで顔を顰める。

「あっっま、ダメだ。コーヒー飲も」
「よくそんな苦そうなコーヒー飲めるよな」

一口飲んでみる？そう聞かれて差し出されたカップを受け取る。苦い香りのする真っ黒な液体は口にするのにだいぶ勇気がいる。最初に飲み始めた人はきっと気が狂っていたんだろう。苦い匂いのする豆をすり潰して飲み物にするなんて。

「……にっっっが！！！」

咳き込みながらココアを手にすると、彼女はおかしそうにけたけたと笑う。口内の苦さと彼女の笑顔の可愛らしさにたぶん、恋を煮詰めたらこんな味がするんだろうなって中学生の女が考えそうなことを直感的に思った。

甘党の俺じゃ、到底飲みきれない。でも俺は、ココアみたいな味の恋なんてもうできないんだ。

だからきっと、俺と彼女も結ばれない。

『恋を煮詰めたらきっとこんな味』end