【実l況l者】好きを更新し続けよう【短編集】 (ページ16)

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愛苦しいほど魔法使い _rtrt ページ16

「……おはよ、A」

鏡に向かっていると彼が起きてきた。大好きなあなたに、未完成なこの顔を見られるのなんて耐えられない。

「あ、待ってごめん、まだそっちいて」
「えー、せっかく早起きしたのに。なんで？」

まだ寝ぼけているんだろう、ゆるゆるとした口調でゆっくり近付いてくる。まだ開き切ってない目に期待して見逃すか。……いや、彼は意外と策士だから、今頃ぱっちり目覚めてるのかも。

「なんででも。今から着替えるの」

わざと不機嫌そうにそう言うと、彼は優しく笑った。

「それ言われたらなあ、……嘘なんわかっててもあっち行かなきゃってなるわ」

わたしが毎朝施している魔法に彼は気付いているらしい。……まあ、作品だもんなあ、こんなの。男の子はカラーメイクが激しい人を厚化粧だなんて言うけれど、よっぽどわたしみたいなやつの化粧の方がタチが悪い。

作り込んで、繕って偽って、2年付き合った彼氏にも完全なすっぴんなんて見せたことなかった。でも彼は、何も言わない。わたしが隠してることを知っていても、黙って見ないでいてくれる。

「なんて、そろそろ化けの皮剥がしてもらうからな」
「っわあ！！？」

考え込んでいると、背後にレトくんが来ていた。

「……ね、なんで見せてくんないの？」

そりゃあ、そうだよね。わたしがレトくんを好きでいる限り、レトくんがわたしを見ていてくれる限り、いつか直面する問題だった。

わかってたけれど、心の準備が出来てなくて自然と涙が零れた。驚いたのと、申し訳ないのと、顔を伏せてしまう自分への不甲斐なさとが入り交じった、汚い涙。

「っはは、なんだ、A綺麗じゃん。どんな化け物が出てくんのかと思ったわ」

レトくんがわたしの顔をむりやり上げさせて目を合わせて笑ってくる。わたしが目を見開いて、すっかり声を出せないで泣き続けると、優しく拭ってくれた。

「いつまで泣いてんの」

……自分で施しかけた魔法は涙で流れてしまったけれど、その代わりにレトくんのあったかい言葉で魔法にかけられてしまいそう。

「っうるさい、あほ、ばか、勝手に見んな」

「そんなこと言う元気あんなら安心したわ、ほら、もう俺あっち行くから着替えなよ」

「必要ないってわかってるくせに、ばか」

「そばにいてほしいん？」
「レトくんがそばにいたいんでしょ」

「そうとも言う」

彼の魔法は、なかなかとけなさそうだ。まあ、それでいいから、笑ってしまえるんだけど。

『愛苦しいほど魔法使い』end